本を片手に街を歩けば街がもっと好きになる〜川越の建物・近代建築編〜(前編)

,

取材・記事 白井紀行

 

5月31日に仙波書房から発売され新聞、ネット、ラジオなどのメディアで相次いで紹介。

川越の書店では平積みされるなど大きな話題となった書籍「川越の建物〜近代建築編〜」

川越に現存する近代建築から21箇所をを写真、イラスト、文書で案内しています。

 

建物を巡りながら川越の街歩きを楽しめるというのがこの本の謳い文句。

ということで、本を片手に実際に街歩きをして見ましょう♪

今回は、東武東上線川越市駅からの出発です。

 

巻末にはエリア、道路ごとに色分けされた地図が掲載されています。

もし、川越の街に詳しくなくても大丈夫。

的確なランドマークが示されているので、地元の人なら一目で場所が分かります。

なので、迷ったらお店の人などにどんどん聞いちゃいましょう♪

 

素敵なイラストで描かれる川越の建物たち

川越市駅から歩いて数分のところにあるのが「リストランテ・ベニーノ(田町5-1)」

本を参考に歴史を紐解くとこうあります。

明治2(1869)年創業の老舗材木店「カワモク」が昭和2(1927)年にショールームとして建築。

その後、六軒町郵便局、楽器店、カルチャーセンター、事務所へと活用されました。

現在1Fは本格イタリアン、2Fはタイ料理屋として利用されています。

また、建物はハーフティンバー様式というのだそうです。

この本では、建物を写真でなく扉絵(イラスト)で紹介。

そのため、実物の写真と並べてみると、建物の特徴がより際立つことがわかります。

原画は、川越が舞台のアニメ作品『月がきれい』を制作したfeel.(フィール)の協力を得て、プロダクションアイが描いたもの。

一つの建物をイラスト、建物概要と歴史を分かりやすく伝える文章、現在と過去の写真を並べて4〜6ページで紹介。

さらに、コラムやエッセイも盛り込まれていて、観光案内のガイドブックとしても役立ちます。

建物に詳しくなくても知らず知らずに興味を持ってしまう、そんな仕掛けがされています。

 

甘味処 川越あかりや

川越市駅から本川越駅を抜けて北へ向かう途中にあるのが「甘味処のあかりや(新富町1-9-2)」

昭和13(1938)年の築で、元は寝具店だったのだそうです。

「当時は人気キャラクターの枕が並んでいて、書き手の私も母親にねだった一人だった」

そんな一文を読むと記者もふと子供の頃のことが蘇ってきました。

 

本を片手に街を歩くと、これまで見過ごしていた建物がどんどん気になります。

 

大正浪漫夢通りへ

あかりやをさらに北へ進むと、大正浪漫夢通りへと続く道。

本では水色エリアと記されていて、15個ものマーカーがつけられています。

 

川越熊野神社

建物を見学する前に、街歩きの安全を願って川越熊野神社を参拝。

熊野神社は天正18(1590)年に勧請したことが始まりとされている歴史ある神社。

開運・縁結びの神様として親しまれています。

 

ここに立ち寄ったもう一つの目的は川越高校漫画研究部が作成した作品を見ること。

川越を舞台にしたアニメや漫画のあらすじやキャラクターがまとめられています。

 

「川越の建物」に縁のある「月がきれい」も熊野神社の境内案内とともに紹介。

本にもこの「月がきれい」を始め、どんなドラマやアニメの舞台になったかの情報も満載。

聖地巡礼のアイテムとしても活用できます。

 

Blue Fairy(旧相亀洋品店)

川越熊野神社の先。「相亀」という大きな看板が目立つ建物は、旧相亀洋品店(連雀町16-8)。

現在は、手作り帽子専門店「Blue Fairy」が週末を中心に営業。

シャッターには元禄7(1694)年当時の川越の古地図が描かれています。

本の作者が地図をじっと見入っていたため店主の松本敬子さんが店を開けられず困ったとか。

しかし、それがきっかけでこの本にコラム「川越路地てくてく散歩」を書くことになりました。

どこで縁が生まれるか分かりませんね(笑)

 

大野屋洋品店

「大正浪漫夢通り」と名付けられた200メートルほどの通り。

川越の街の象徴である店蔵、町屋造り、洋風看板建築など様々な建物が軒を連ねます。

 

そのとば口にドッシリと構えるのが「大野屋洋品店(連雀町13-10)。

外観は石造り風ですが、実は木造3階建ての建物。昭和5(1930)年の築です。

 

窓上の欄間部分にある花束のレリーフ。

「川越の建物」を片手に建物を眺めると、こういった造形がどんどん気になってきます。

 

旅籠小江戸やのテラスから看板建築を知る

大正浪漫夢通りに入る前に、東西を横切る蓮馨寺の参道である立門前通りを散策。

この通りには看板建築と呼ばれる建物がずらりと軒を連ねます。

 

通り沿いには2020年8月にオープンし1周年を迎えたばかりのホテル「旅籠小江戸や」があります。

 

4階ラウンジ(宿泊者のみが利用可)からテラスに出ると眼下にこんな光景が広がります。

芝居の書き割りのように木造2階の建物に洋風の装飾を施す看板建築の特徴がよく分かります。

 

さきほどの大野屋洋品店も地上から見ている分には看板建築と気付きませんね。

 

おびつ玩具店第二売場、LIFE、彩乃菓

蓮馨寺の前に陣取るモダンな建物。

今はフレンチ&イタリアンを提供する「LIFE」と和菓子の「彩乃菓」が営業しています。

 

シャッターが閉じていますが、今も不定期で営業している「おびつ玩具店」第二売り場。

外からも玩具やプラモデルが山積みになっているのを見ることができます。

 

全く違うデザインですが、モダンなデザインと建築当時の面影を残す建物は一軒の長屋。

この本を見て初めて気付かされました。

 

 

 

一見そう思えませんが、これも上から見ると看板建築になっていることがわかります。

 

 

いよいよ大正浪漫夢通りへ

大正浪漫夢通りに足を踏み入れると実に個性的な建物が道の左右に軒を連ねます。

 

シマノコーヒー大正館

その中でも「シマノコーヒー大正館(連雀町13-7)」は看板建築のお手本のような外観。

築は昭和8(1933)年で元は呉服店で、平成8(1996)年に喫茶店として開業。

2階部分は当時のままだそうで、その見所については、ぜひ、本書をご覧ください。

 

味の店いせや

半円状の屋根がひときわ目を引く「味の店いせや(連雀町13-6)」

昭和10年(1935)年の創業以来、和菓子・だんご・ご飯物を販売する地元に愛されるお店です。

重厚感のある天然石が長年の風格を感じさせますが、平成15(2003)年の建て替え。

 

半円と書きましたが、実は多角形。本には天井の様子が分かる写真が掲載されています。

梁と梁を一定の角度で組み合わせた網代状の木の梁は、この建物の最大の見所。

一般公開はされていないそうなので、初めて知った人も多いのではないでしょうか?

 

3つの縦長窓は洋風町屋に欠かせません。

ミクロ的、マクロ的な外壁の見方や、1階店舗の立体的な格子天井…。

建物の仕掛けの楽しみ方を知ると、また新たな発見があるかもしれません。

 

伊勢亀本店

大正3(1914)年築の木造建築「伊勢亀本店(仲町3-23)」

今の看板建築となったのは昭和5(1930)年で、右書きの看板に歴史を感じさせます。

また、1階の引き戸の窓ガラスは今では貴重となった「大正硝子」なのだそうです。

 

川越商工会議所

さて、建物を巡る旅もいささか長くなりました。

最後に大正浪漫夢通りの北の玄関口にある川越商工会議所(仲町1-12)で前半を〆ましょう。

 

パルテノン神殿を彷彿させる堂々たる風格は、建物に興味が無くとも立ち止まらずにいられません。

昭和2(1927)年に建築家の前田健二郎氏が「武州銀行川越支店」として設計しました。

玄関口上の装飾は全体の格式を高めており、まさに建物の顔といえるでしょう。

 

「ジャイアントオーダー」と呼ばれる階を貫く巨柱は、北に5本、西に4本あります。

四角い台座の下に押しつぶされたお饅頭のような柱頭がありその下に柱。

この柱頭形状が「ドリス式」といい、パルテノン神殿と同じ様式なのだそうです。

さまざまな装飾もこの建物の見所です。

後半ではいよいよ、一番街、そして、観光客が普段訪れない裏通りを巡ります。

蔵造りだけでなく、バラエティに富んだ川越の建物の魅力を引き続きお楽しみください♪

 

[注記]

  • 本のイラストを建物と並べた紹介は、発行元の承諾を得て行っています。
  • 記事内で紹介している建物の情報は本書を参考にしましたが、文責は記者にあります。

Information

川越の建物〜近代建築編〜

【発 行】2021年5月31日 第一版第一刷発行

【編 集】「川越の建物」編集委員会

【発行者】神谷利一

【発行所】仙波書房

【HP】https://www.semba-shobo.com/

【FB】https://www.facebook.com/profile.php?id=100003215171577

【TW】https://twitter.com/6gEnimXhmKFIFmo