未来へ繋ぐ100年プロジェクト「新桶初しぼり」完成〜 笛木醤油株式会社 12代目当主 笛木吉五郎様〜

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取材・記事 白井紀行

 

笛木醤油株式会社(川島町上伊草)は寛政元(1789)年に創業して以来、木桶で発酵・熟成させる伝統的な醤油作りを守り続けています。

2016年に50年ぶりに木桶を新調し、初めて仕込んだ醤油『新桶初しぼり 金笛笛木醤油 12代目笛木吉五郎新作』が6月に完成したとのことで、同社の12代目当主の笛木吉五郎社長にお話を伺いました。

 

原材料にもこだわった納得の醤油

- こちらが「新桶初しぼり」ですね。桶を新調するのは50年ぶりだとお聞きしましたが

2016年の9月に全国から桶職人さんを呼んで50年ぶりに木桶を新調しました。川越産の大豆と北本産の小麦を100%使用して1年間かけて発酵・熟成させて出来上がったのが「新桶初しぼり」です。新桶で初めて絞るもので、一つの桶で一生に一度しかできないお醤油です。

100ミリリットルが限定400本、500ミリリットルが限定300本でこちらには全部にナンバリングをしています。ラベルにはうちの家紋である「六つ槌」に、昨年、私が代替わりしたので笛木醤油が生まれ変わるという意味で太陽とお醤油の色でもある赤をイメージしました。食品メーカーとして女性目線を大事にしたいと思って女性のデザイナーにデザインしてもらいました。

また、この「新桶初しぼり」で、納得のいくものができましたので、9月8日の創業祭で「12代目吉五郎」を襲名することにしました。

500ミリリットルは300本が完売。100ミリリットルは7月に販売再開予定だそうです。

 

- 原料はすべて埼玉県産なんですね

お醤油の原材料となる小麦と大豆はJAいるま野さんとの契約栽培で、顔の見える生産をするということにこだわりました。醤油の香りづけとなる小麦は北本産「里のそら」で、旨味となる大豆は川越産「里のほほえみ」を使っています。

「里のほほえみ」という大豆は蛋白成分が高くて、その旨味が醤油に移行します。うちではもともと埼玉県産の厳選した大豆を使用しているのですが、今回のこの川越産の大豆は非常に高い蛋白質が含まれていたので、普段よりもぐんと旨味成分が強いお醤油になりました。本当にびっくりするくらいなんです。

 

- 大豆は川越のどちらで作っているんですか?

大豆は川越運動公園すぐそばで代々農家をやっている山田文雄さんが栽培しています。大豆は6月下旬から7月に種まきをします。その前は小麦を栽培していて、ちょうど、梅雨の時期に収穫します。先日、できたばかりの「新桶初しぼり」をお届けし、ほんの少しですが刈り取りもお手伝いしてきました。

真ん中が山田文雄さん、右はJAいるま野さん

 

このままでは木桶でお醤油が作れなくなってしまう

- 木桶でお醤油も作っているところは少なくなっているとか

ビールと同じでお醤油もほとんどが大手を占めており、木桶で作っているところは1%くらいです。この近隣だとうちと松本醤油商店(川越市)さんと弓削田醤油(日高市)さんですね。

埼玉県は原料である小麦が良く取れたこともあってお醤油の文化が根付いていたんです。昔は埼玉県内でお醤油屋さんが60軒以上あったのですが、今は、10社くらいですね。

お醤油の五大産地と言われている石川県金沢市大野町でも自社の製造ではなく組合を作って20社でまとめて製造しています。原料の値段が上がったりとか、お醤油を作るのに1年とか再仕込みだと2年かかるので人件費もかかってしまう。そういう意味でも自分のところで一括でやっている埼玉県のお醤油屋さんはもすごく頑張っているなと自負します。

川島にある笛木醤油の本店

 

- 新調した木桶はどれ位の大きさで、作るのにどれ位の期間がかかるものなんですか?

今回、新調したのは2石といって高さが1.2メートル、直径が1メートルくらいの小さいサイズ。これには、700〜750リットルくらい入ります。徳島県の桶職人の原田さんが棟梁という形で、見習いの女性が埼玉から1人、あと、大阪と長崎からも1人ずつ。それからうちの誰かが必ずついて4〜5名で作って1週間くらいでした。

桶作りでは、側板といって細長い板を木の釘で30枚くらい重ね合わせて行ってやるんです。やっぱり鉄の釘だと塩分があるので錆びちゃうんで。ぐうっと合わせていって揃わないともう1回やり直したり微妙な作業がありますね。

 

 

このときは吉野杉を使ったんですが、今年は埼玉県ときがわ町産の杉を使って20石の大桶にチャレンジする予定です。これだと高さが2.3メートル、直径が2メートル位になって4,500リットルくらい入ります。

ときがわ町産の杉の確認をする桶職人の原田さん。

 

- 50年ぶりの新調とのことですが、木桶というのは大体どれくらい持つものなんでしょう?

だいたい100年持つと言われていて、うちでも古いものだと150年前のものがありますね。でも、木桶でお醤油を作るところが醤油業界全体の1%以下になってしまったので、仕込桶を作る会社が今では1社しか無い。さらに、そこも2020年には大桶を作るのは止めるという話をしています。

全国的に職人さんは60人以下だと言われていて高齢化も進んでいます。そうなると、今は良くても将来的には木桶でお醤油を作ることができなくなってしまう。それに危機感を持った小豆島のヤマロク醤油さんが「木桶職人復活プロジェクト」を立ち上げて、私どもも3年前から参加させてもらっています。

うちの会社でも製造部に木桶部を立ち上げて、木桶作りを一緒にやったりとか、技を教わったりなどして、将来的には自社でも修繕ができたり、小さい桶かもしれないですが作れるようにしていきたいなと思っています。

笛木醤油の木桶。戦前に作られたもので50年以内には寿命を迎えてしまう。

 

未来へ繋ぐ100年プロジェクト

一昨年は新桶ができて、今年は襲名式、来年は創業230周年と記念行事が続きますね。

来年で創業230周年を迎えるにあたって「未来へ繋ぐ100年プロジェクト」を始めました。

一、 作り手として
地球環境に優しく安心安全な 醤油づくりと木桶仕込みを 未来に繋げる

二、 地域人として
醤油づくりを通して、人を育て、 地域社会に貢献する

三、 親として
子どもたちに醤油をはじめとする 日本の大切な和食・発酵食文化を 伝える

そのプロジェクトの第1弾が今回の木桶作りで、第2弾が「大豆づくりからみんなで醤油をつくろう」と題した体験型のイベントです。埼玉県小川町の青山地区で作られる青山在来大豆をみんなで種まきをして収穫をして、そしてお醤油の仕込みを体験します。

とても人気で、今年の2月の醤油仕込み見学は50名を越える方に参加いただきました。

 

2018年は次の日程で行われるそうです。

(1) 7月8日(日)大豆種まき体験10:00~13:00
(2) 11月25日(日)10:00~13:00「大豆収穫体験」
(3) 2019年2月2日(土)10:00~12:00「醤油仕込み見学」

詳しくは、ホームページまたはFacebookをご覧ください。
https://kinbue.jp/1286
https://www.facebook.com/events/587056548330018/

 

来年は大豆や小麦も100%オール川越の醤油を発売

今、大豆も小麦も100%オール川越で地産地消を目指したお醤油も仕込んでいて、来年の1から2月には発売できる予定です。

川越は観光の街として知られていますが、農業商業工業がパランスよく発展した街なんです。農業だと大豆、小麦もすごく良いんです。だから、川上から川下まで一貫して川越の良さを醤油で伝えられるじゃないかなと。

 

- 川越で原材料が採れて、醤油に加工して、こちらのお店(うんとん処「春夏秋冬」)で食べることができる。まさに6次産業ですよね。川越醤油を使ったメニューも考えているんですか?

そうですねここでしかできないことを、川越に来たお客様、観光客の方を含めて喜んでいただけるようなおもてなしができればいいなと思います。

それと、幸町にある福呂屋さんとのコラボで『金笛 スイーツにかけるしょうゆ』を7月1日から発売しますので、ここの隣で11時から15時まで、昔ながらのかき氷の機械でつくった『12代目吉五郎による金笛醤油かきごおり』を販売します(7月8日、15日も販売予定)。

バニラアイスやパンケーキなどにかけると最高に合うそうです。

 

川越の飲食店さんは農作物もそうですが、川越産ということにこだわっていい流れになっている気がします。特に、醤油は和食には欠かせない日本の食文化の根本だと思います。

本日はお忙しい中、醤油作りについてのこだわりと現状、そして、木桶仕込みを未来に繋げる取り組みなど大変興味深いお話ありがとうございました。

 

(次号予告)この後、川越店店長の村田様にお店の案内をしていただき、自慢のうどんもいただきましたので、その話題をご紹介しますのでお楽しみに!


INFORMATION

笛木醤油株式会社(本店)

【住所】川島町上伊草660

【電話】049-297-0041(平日9:00〜17:30)

【営業】9:00〜17:30(土日祝は17:00まで)

【定休】年末年始

【HP】https://kinbue.jp/

【FB】https://www.facebook.com/kinbuesoysauce/

【TW】https://twitter.com/kinbueshoyu

金笛直売店 川越店

【住所】川越市幸町10-5

【電話】049-225-6701

【営業】10:00~17:00

【定休】不定休

お食事処 「うんとん処 春・夏・秋・冬」

【住所】川越市幸町10-5

【電話】049-225-6701

【営業】11:30~17:00(L.O16:30)

【定休】季節により異なる(※天候により臨時休業する場合があります)

【HP】https://kinbue.jp/directly-administered_meals

 

(お断り)この記事の写真の一部は、笛木醤油様の承諾のもと同社のホームページやFacebookから借用しております。