峰岸進さん(那珂川の舟大工)~一艘の舟から始まる川物語・その3~
話しは遡ること約3ヶ月前。
川越でも雪景色の見られた2月7日(日)午前5時。
川島網打連合会の方々と車で移動すること約3時間。
やってきたのは茨城県常陸大宮市。きらきら光る水面が美しい那珂川の傍。
陶器で有名でSLが走る真岡を越え、ツインリンクもてぎ(茂木)の先。
これで、おおよその距離感や位置は分かるでしょうか?
那珂川の堤防沿いをテクテクと歩く。
‖ 舟大工の峰岸さん
ほどなく見えた作業場に居られるのが、那珂川最後の舟大工の峰岸進さん。
昭和6(1931)年生まれの85歳。
那珂川に浮かぶこの舟も峰岸さんの手によるもの。
渡し船や馬を乗せる大型舟、漁に使う小型の舟など数多くの舟を製作してきました。
峰岸さんが作る和船は複数の板を組み合わせたもの。
今回、作るのは川島町の依頼で10人乗りの大きめの和船。
「これを使うっぺや」。
作業場の横で乾かしている板の中から今、舟底に加工しているのと同じ厚さの板を選ぶ。
進捗だけでなく、川島町網打連合会の方々は舟作りにも参加。
‖ 和船の作り方
ここで簡単な和舟の作り方を紹介。
和舟は舟底、タチド、左右のホケ、ゴバンという5つのパーツからなる。
下図のように加工した杉板を舟釘で止めて舟ができあがる。
この板は和舟の舟底になるもので、舟底の一番広いところの幅は1.4m。
もちろん、そんな幅の板はないので5枚の板を継ぎ合わせて1枚にする。
板と板はこんな風に舟釘で止めていく。
板の広い面は重ねず、その側面だけでくっついている。
使っている舟釘は、前回、ご紹介した吉澤さんが製作したもの。
吉澤典史さん(鍛冶職人・吉澤刃物)~一艘の舟から始まる川物語・その2~
側面だけで接している2枚の板は接着剤を使うけど止めているのは舟釘だけ。
「水漏れしないのだろうか?」そんな疑問が浮かんでくる。
そこに和舟作りの職人技が織り込まれているのだ。
‖ 舟底を作る
舟底になる板に長手方向に墨壷で目印の直線を引く。
板には中心に近い脂分の多く丈夫な赤みとシラタという外周部分がある。
シラタは水分が多く腐りやすいので、先ほどの線にそって丸ノコで切り落とす。
でも切った跡をよく見ると直線でなく、何だか曲がっている。
大丈夫でしょうか?
実はこれはワザと。木目に沿ったナチュラルカーブを描いているのだ。
こうすることで接触する面積が増え、木と木がより密着する。
端まで切り終わったら、つぎは、電動カンナで表面を滑らかにする。
さらに手でカンナを掛けて滑らかに仕上げる。
2枚の板を重ね合わせる。
下になった板に先ほど鉋で滑らかにした上の板のカーブを墨で写し取る。
その墨に沿って下の板を切れば同じカーブで重なるわけだ。
といっても、これでは板同士を隙間無く、くっつけられない。
そこで、「擦り合わせ」という舟作り独自の技を使う。
まず、2枚の板を僅かな間を空けて密着させる。
その間を「スリアワセノコ」で挽いていく。
そうすると、2つの板の切断面のカーブが完全に同じになる。
しかも、ノコギリを挽いた切断面は毛羽立ち、水を含むとそれが膨張する。
これによって水漏れを防ぐことができるのだ。
‖ 板の修復
板に大きく欠損した部分が見つかった。
これは修復しなければならない。
その部分を含めて丸ノコ、ノコギリ、ノミで菱形に切り取ってしまう。
これで欠損部分が取り除けた。
ここに別の板から菱形に切り出したものを嵌め込んで穴を埋める。
でも、菱形が上下同じ大きさでは抜けてしまう。
だから、断面は下が狭い台形になるように切り出さなければならない
穴にぴったりと嵌まるように現物合わせをしながら作業は慎重に。
形が整ったら鉋がけをしてぴったりと嵌める。
こんな感じで穴埋めがされました。
‖ そろそろ帰る時間、その前に…。
そろそろ帰る時間となってしまった。
出来ている部材を組み合わせてどんな舟になるかシミュレーション。
形ができるとかなり大きな舟になることを改めて実感する。
シリーズ「一艘の舟から始まる川物語」では引き続き、舟の製作過程をお届けします。
※和船の製作過程を分かりやすくするため、一部、時系列を変えています。
取材・記事 白井紀行
INFORMATION
川島キャスティングネット(川島網打連合会青年部)
【HP】http://kawajimacastingnet.jimdo.com/
シリーズ連載(第一章)
第1回
第2回
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