職人の機微が触れ合う~一艘の舟から始まる川物語・その4~
前回の訪問から2週間後の2月21日。
再び、茨城県常陸大宮市。那珂川まで3時間ほど掛けてやってきました。
今日は、川越の鍛冶職人である吉澤さんも一緒です。
追加で持参した舟釘を手に峰岸さんから細かな注文がつけられます。
見本と同じように作っていても、頭の角度など微妙な違いがあるそうです。
舟も舟釘も工業製品でなくひとつひとつ手づくり。
職人さん同士でしか分からない、機微の触れ合い。
和舟つくり。今日の目標は、舟底をはぎ合わせて一枚板にすること。
前回も紹介した「擦り合わせ」という技法で板を毛羽立たせ密着させる。
同じカーブで切った2枚の板にわずかな隙間を開け、スリアワセノコで引いていく。
その技法を川島町網打連合会の加藤さんが体に覚え込ましていく。
「擦り合わせ」が完了。2枚の板のカーブが完全に一致しています。
更に隣の板を「ハタ」と呼ばれる締め具(クランプの一種)で固定。
丸ノコでざっと板のカーブを合わせます。
「ハタ」という器具で板同士を密着させながら「擦り合わせ」を行う。
これは、峰岸さん独自で考案した技法とのこと。
ノコギリを引く音をBGMに静かに舟作りは進められていく。
曇っていた空は、いつしか青空になっていました。
全ての板の「擦り合わせ」が終わりました。
板同士を繋ぎ合わせる工程(はぎ合わせ)に移ります。
板の側面を金槌で叩く「キゴロシ(木殺し)」という工程
収縮されると、元に戻ろうとする木の復元力でより接合面を密着させます。
木の節にあたるところは叩いても縮まないので反対側を多めに叩きます。
キゴロシが終わったら接合面に接着剤を塗布。
二種類の溶剤を混ぜて作ります。
これをスプーンで塗っていきます。
接着剤は板同士をより密着させるのと防腐が目的。
接着剤を塗り終えたら板を接合面で重ねる。
予め板に引いておいた基準線を合わせます。
位置が決まったら「かすがい」というコの字型の釘を軽く打ち付ける。
そして、「ハタ」で締め上げて板同士を固定。
舟底の水に接する側には「クギザン」と呼ばれる穴が開けられています。
「クギザン」は20cm弱の間隔で「ハ」の字に開けられています。
この穴に舟釘を打ち込んで板同士を固定します。
こんな感じで底板を繋ぎ合わせます。
舟釘は先端が丸まっており、一般の丸釘より柔らかいので、直接打ち込めません。
そこで使うのがこの「ツバノミ」
これでまず、舟釘を通すガイド穴を作ります。
飛び出した「ツバ」の部分は「ツバノミ」を引き抜くのに使います。
「クギシメ」という道具を使って舟釘を打ち込みます。
表(おもて)面に出てしまわないように、細心の注意を払うところ。
「クギサン」に打ち込まれた舟釘。
この後「埋木」を使って「クギサン」を埋め、カンナで面を整えます。
舟釘の微調整。
真っすぐだと、表(おもて)面に出てしまうので少し反らす。
峰岸さんによって最終加工が行われた舟釘を手に取る吉澤さん。
グラインダーを使って、舟釘の先を微調整。
ほんのちょっとの違いで、舟釘の入りやすさが違うそうです。
次の板の側面も「キゴロシ(木殺し)」を行う。
通常、はぎ合わせるのは3枚ですが、今回は幅が必要なので5枚。
「ハタ」も手持ちの長さだと足りないので2本繋げるなど、船大工さんも苦戦。
とここまで進んだところで日が陰ってきました。
まだ、目標には達してませんが、今日の作業はここまでとなりました。
(お断り)
この後、舟の製作は、ホケ、タチド、ゴバンの取り付け工程に進みます。
残念ながら、スケジュールの調整がつかず何回か取材に行けませんでした。
そのため、次回は、組み立てられた状態からのレポートになります。
取材・記事 白井紀行
INFORMATION
川島キャスティングネット(川島網打連合会青年部)
【HP】http://kawajimacastingnet.jimdo.com/
シリーズ連載(第一章)
第1回
第2回
第3回
第4回