社会と繋がるアートの輪を広げたい「誰もがみんなアーティスト展」〜スギヤマイクエさん〜

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取材・記事 白井紀行

 

菓子屋横丁を過ぎて赤間川にかかる高澤橋を渡ってすぐ。

古民家カフェ「もっこ館」2Fでは今、「誰もがみんなアーティスト展」が開催中※

5月27日(日)に行われたオープニングパーティに伺ってきました。

※会期は5月26日(土)〜6月5日(火)まで(5月30日、31日は休み)。

 

階段を上がれと120点を超えるたくさんの作品が目に飛び込んできます。

 

これらは、主催のスギヤマイクエさんと彼女の支援者、アート仲間の作品。

「臨床美術」と呼ばれる芸術療法の中で制作されたものです。

 

臨床美術について

臨床美術は1996年に埼玉の彫刻家が医者やカウンセラーと協力して「創作活動による認知症の改善」を目的に研究、開発を始めた芸術療法。

描いた作品から分析や診断をするものでなく、五感を使って創作活動をすることによって脳を活性化させたり、精神面に良い影響を与えるという考えが特徴です。

初めは認知症の改善が目的でしたが、実践を重ねるうちに子どもの感性教育や障がいを持つ方、精神疾患の方へなど多方面での実践研究が進むようになり、現在では高齢者や障がい児のデイケア、学童保育、社会人など、さまざまな現場で臨床美術を実施されています。

臨床美術・彩球ホームページより

 

今年の冬はたくさん雪が降りましたね

「木」というテーマを与えられ、五感を駆使して感じたままに描かれた絵。

 

長押の上には桜をモチーフとした絵。春のふんわりとした雰囲気まで感じられます。

リンゴならば、手に持ったり、匂いを嗅いだり、齧って歯ごたえや味を確かめる。

五感を駆使して脳を刺激。使う画材も自分で好きなものを選んで制作。

できた作品を通してのコミュニケーション。

大人も子供もウマイもヘタもなく、自己表現を楽しむ芸術(アート)です。

 

スギヤマイクエさん

この作品展を主催するのは川越市在住の「スギヤマイクエ」さん。

女子美術短期大学で油画を専攻し、ボランティア365に参加。

作品展を共催する「臨床美術・彩球」の立ち上げメンバーの一人で臨床美術士。

2016年3月にALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断される。

2017年自宅に戻り、24時間介護。現在、仲間とアート活動を続けています。

 

ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは?

脳から筋肉へ命令を伝える運動神経細胞(ニューロン)が侵される病気。

知覚神経や自律神経は侵されず、記憶や知性の障害は見られません。

例えば、腕を抓られると痛みはありますが、手を引っ込めることができません。

心臓や消化器には影響しませんが、肺は呼吸筋が侵され呼吸が困難になります。

現在、約1万人の患者がいるとされ国の難病に指定されています。

(参考)ALS疾患啓発委員会

 

 

ALS発病前の作品と活動

ALSを発病する前のスギヤマさんは、アトリエhonohonoを主宰。

アートワークショップを行いながら自身の作品も発表。

「臨床美術・彩球」では、子ども、障害を持った方や高齢者とアートセション。

たくさんの人たちと、五感を使って描くアート活動をしていたそうです。

左半分を占める作品の名は「アネモネの声」

何色もの色をどうやって塗り重ねたのだろう?と思わず見入ってしまう。

 

 

左上の緑の絵のタイトルは「ハラビロカマキリのゆううつ」

どこにカマキリがいるのかなと、ついつい探してしまいます。

 

 

躍動感が溢れる人物クロッキー3部作(写真に写っているのはうちの2作)

 

版画を始める

手が動かなくなってきた頃

絵を描くのがキライになっていた。

そんなとき

ステレンボードと割り箸ペンを使って

遊びに来た友達がいた

私のチカラでも描けるのです

版をつくると

友だちと刷る

この時から ひとりではないみんなとの制作が始まりました。

 

共同制作しませんか?

今の気持ちの色は何色?パレットに出しましょう

気持ちを線や点で現してみましょう

ぽよ〜ん。とか、きゅ〜ん。、かっかっかっ。ふわっ。とか

声に出すのもいいかも

 

道具はスポンジ、スプーン、刷毛、筆、いろいろあります

描いた後はキャンパスの向きを変えてください

色彩が重なり響きあい変化しながら、どんな作品になるかワクワクします(*^.^*)

お時間ありましたら是非!

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と、我が家にやってくる支援の皆さんに投げかけてみました

これは、きっかけ

はじめは、遠慮気味に、、、

いつしか、「みると描きたくなっちゃう」という声も

そして、一枚のキャンバスを通してやりとりが広がっていくのでした

 

共同制作「はるのかぜ」

新郎新婦のプレゼントだったのです

毎日アートチームのサポートで

郁恵ちゃんのひとふでで

完成しました

 

今のわたし

手も動かないのにどうやって描いているのって思うでしょう

筆も持てないのに

絵を描く道具は筆だけではない

今のわたしは手足に絵の具をつけて

仲間たちに目で合図しながら手足を動かしてもらう

ひとりでは描けないけど

やっとたどりついた

これが今のわたしです

 

手や口は動かせ無くても提案はできる。

作品の制作には支援者の力を借りますが、全て彼女の意思で描かれています。

 

レセプションが始まりました

10時半ごろスギヤマさんが「もっこ館」に到着。

車椅子に横たわる彼女を見て、2Fに上がるのは体に負担がかかりそう。

挨拶は広場でやるのかしら?そんなことを考えていました。

 

時間が近づくと、仲間たちは、頭、肩、背中、足などを支えて階段を上がる。

 

自分や支援者、アート仲間の作品に囲まれ、お客さんが見守る会場。

スギヤマさんの挨拶が始まりました。

今日は家を出るのが大変だった。

久しぶりの外出で

私は一人旅が好きでした

(「えっ、長い話!?みんな待ってんだけど」と付き添い者がフォロー)

一人で寝袋持ってどこへ行くのも怖くなかった

今はベットから起きるのも大変

一人で何でもできたのに

たくさんの人に助けられています

校長先生の話みたいに長くなるので、もう食べよう!

(最後にもう一言言いたいという合図)

ありがとう

 

声の代わりは、ひらがな50音などが書かれた「透明文字盤」を使う。

文字盤を上下左右に動かし、該当する文字が来たらまばたきで合図します。

文字盤を介した自然な会話に、2Fへ上がったのも彼女の意思なんだと実感。

病気だから負担では?大変では?無理させない方がと勝手に考えてはいけない。

求められた時に手を差し伸べれば良い。

スギヤマさんと周りの人たちはそんな風に病気と付き合っていると感じました。

 

イクエさんから、「挨拶は短くね」と念を押されて、お父さんの挨拶で乾杯!

仲間たちに、今日のメニューを教えてもらうと、たくさん食べてねと促します。

私たちがいると遠慮して取れないんじゃ無いかしら?

スギヤマさんは、そんなことを言って会場のみんなを笑わせます。

この短い時間でも、仲間たちと和気藹々とアート制作を楽しむ雰囲気を醸し出す。

だから、こんなにも多くの人たちが支えてくれているのでしょうね。

 

埼玉新聞に掲載するということで鏡でチェック

キラキラがいっぱいのフラメンコ

午後からは広場でフラメンコ。そして、スギヤマさんと同じ病気のゆかさんの踊り。

司会の方が「出会い」というタイトルで出演者を紹介します。

出会い

月に一度、アート活動をしに通っていた施設の

リハビリの先生としていらしたのが、上野先生。

常に前向きで元気と勇気を分けてくれます。やさしさいっぱいの上野先生です。

 

病気になって、上野先生に誘われて観に行ったフラメンコ

それは同じ病気のゆかさんが踊っていました。

ゆかさんに合うと、いつも素敵な笑顔で私も楽しくなります。

そして、その笑顔に励まされています。

 

ゆかさんの独身時代からのお友達、兼子さんが演奏します。

また、新しい出会いです。

 

上野先生のフラメンコ。

一緒に踊るゆかさんの娘さんが「オレ!」というたびに拍手が起こります。

 

TBSドラマ「コウノドリ」メインテーマ「Baby, God Bless You ~Birth~」

優しいピアノの調べに合わせて、ゆかさんと娘さんの共演。

 

見つめ合う場面では、練習で二人が過ごした時間を思い出しているよう。

 

青い扇子は波のように大きく動かし、白い扇子は波打ちぎわのように静かに。

やがて、2つの扇子は同じ動きとなってゆっくりと閉じられる。

 

踊りが終ると緊張が解けて抱きついた娘さん。笑顔で二人手を取り合います。

挨拶では、イクエさんと集まってくださった人へのお礼。

娘と一緒に踊れた喜び。そして、ALSを発症して命のことを考える毎日。

命を諦めず、命を大切さを伝えて欲しい。

一つの人生を悔いのないようにと、メッセージを私たちに伝えました。

 

オープニングパーティに来た人、一人一人に挨拶して握手。

記者も取材のお礼をすると「今日は泣いてばかりでした」と明るく答えられました。

 

はじまりはマンモス

幼稚園の時、先生が描いたウサギの絵がとてもかわいくて、真似をして描いてみた。

先生のウサギとちっとも似てないし、がっかりした。楽しくない。

それからわたしは、大好きなマンモスの絵を描いてみた。なんだかとってもいい。

毎日、夢中になって何枚も描いた。

自分の表現を見つけた。

その心地よさ、楽しさは、大人になっても忘れることはなかった。

 

アートで人を笑顔にしたい。

そんな思いで、たくさんの人と表現に出会えた。

 

そんな時、不安で怖くて、悲しくて辛く惨めで、

泣いても怒っても逃げられないことがありました。

ALS、へんてこな病気になってしまった。

目覚めると絶望からはじまる毎日から、一度は、少し笑えるようになった。

 

まわりにいる人たちと一緒に、また描き始めたかったから。

でも、憎たらしいくらいにカラダは動かなくなっていく。

 

今、もがいています。ヒトらしく生きるために。

自分だけの表現を見つけながら、やっぱりアートで笑顔になりたい。

地元のみんなと、アートで繋がっていたい。

世代を越えて、人が集まり、アートを楽しめる居場所としてのギャラリーをつくりたい。

スギヤマイクエ

 

スギヤマイクエさん、これから

「誰もがみんなアーティスト展」は、スギヤマさんが社会と繋がるはじめの一歩。

今後もアート活動を継続するため仲間たちと自宅倉庫をギャラリーに改装します。

その資金の調達に4月26日からクラウドファンディング をスタートしました。

https://readyfor.jp/projects/sugigohan

すでにセカンド目標の145万を達成してますが、募集は展示会と同じく6月5日まで。

「人が集まり楽しめる場所づくりをしたい」。

スギヤマさんのこれからを支えるために、是非、展示会へお越しください。

そして、資金調達への支援にもご協力ください。

 

本記事の制作にあたっては、以下を参考にさせていただきました。

臨床美術・彩球

Readyfor「社会と繋がるアートの輪を広げたい。自宅を改装しギャラリーを!」

ALS疾患啓発委員会

誰でもみんながアーテイスト展(展示説明パネル)


INFORMATION

誰もがみんなアーティスト展

【会期】平成30年5月26日(土)〜6月5日(火)10時~17時
    (5月30日, 31日はお休み最終日は15時まで)

【場所】古民家カフェ「もっこ館」2F(川越市石原町1-18-3 )

【主催】臨床美術・彩球(さいたま)

【HP】http://rinbisaitama.sakura.ne.jp/event/index.html

 

クラウドファンディング

社会と繋がるアートの輪を広げたい。自宅を改装しギャラリーを!

作品展の後も継続的な発表の場として、自宅倉庫を改装してギャラリーにするため、クラウドファンディングで資金調達を行なっています。セカンドゴールの145万円も達成していますが、引き続き、ご支援のほどよろしくお願いします。

期間:2018年4月26日(木)~6月5日(火)

詳細は下記をご覧ください。
https://readyfor.jp/projects/sugigohan