弁天横丁に新しき息吹~工藤 芳聖さん(大工・アーティスト)~

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11月末にふと目が留まったニュースがありました。

最古級京町家消失「京都市に失望」元所有者自ら選んだ解体の道

「市は京町家保全継承条例を昨年に施行し、マッチング制度などを今年5月から導入して町家解体を防ぐ施策を強化してきたにも関わらず、貴重な町家の消失を止められなかった。」(記事より引用)

訪日観光客の増加で、古い神社仏閣はもとより京都ならではの街並みや景観も大きな観光資源となるはずなのですが、このような事態が起きていることに軽いショックを受けました。

 

川越でも、その活用が見守られ続けてきた旧鶴川座が取り壊され、4階建てのホテルになる計画がつい先日公表されました。

歴史ある古い建物を守る、維持する、活用するのは至難の業だと改めて感じざるを得ませんでした。

 

しかし一方では、六軒町にある古い長屋がリノベーションされおでんのお店すずのやglincoffee大工町2号店へと生まれ変わり、今や地元の人たちが集う場所になっています。また、三久保町の築約100年の肥料問屋は、ゲストハウスちゃぶだいになり、まずはランチ営業から始動しています。(※ちゃぶだいのゲストハウスとしての運用は来年から)

昔からある古い建物を活かしつつ、新しい価値と人の流れを生み出す場として変化させようという取り組みは少しずつ動き出しています。

 

そしてここにもまた新しい動きがあります。

 

蔵造りの町並みが続く川越一番街商店街の北側、札ノ辻交差点を超えると右側に現れる小さな路地、弁天横丁です。

弁天横丁の入り口はこんな雰囲気のある看板が。

昔は、芸者さんの行き交う花街で飲食店などがあった通りでした。その名残と、どことなく雰囲気のあるこの場所は、今も川越マニアに人気のエリアです。

しかし、観光地区からは少し離れており、一部ギャラリーや設計事務所が入っているものの商業地としてはかなり廃れてしまっているため、古い建物や廃屋が何軒か手つかずのままになっています。

参考サイト:花咲き乱れる赤い道と、蔵の街の裏遺産“弁天横町

 

今から3年半前、川越で初めてゲストハウスをつくろうと奮闘していた若者がいました。(川越にゲストハウスが、あったなら・・・) 彼らが目を付けていたのもまさに弁天横丁の古い建物たちでした。

 

この横丁にある長屋に飲食店できるらしいと、札ノ辻にある辻の吉野屋、吉崎さんからお話をいただき、取材にいってきました。

うかがった12月1日は、1階の道路側はガラスを入れるために板壁が取り除かれ、長屋の内部の様子がよくわかる状態でした。

この建物を借り受け作業にあたっているのは、所沢在住の大工でもありアーティストとしても活躍している、工藤 芳聖(よしひこ)さんです。大学卒業後は一度は建設会社にはいるものの大工だった父親の影響を受け、大工の道へと弟子入り。その後、家具の制作を手掛けたりと活動の幅を広げてきました。近年はパズルアートや絵本作家として個展も開催してきました。

 

この古い長屋に出会ったきっかけは、蔵の会の理事でもあり、しらつち設計工房 代表の白土さんの紹介でした。お二人とも九州出身で、高校の同級生同士というご縁だそうです。

元町にある“喫茶とあれこれ”のBanonさんの2階を施工したのもこの工藤さんでした。

 

「Banonさんに通っていたとき、こんな風に古い家に手を入れてお店をやれるのはいいなぁ、とふとつぶやいたところ、あるよ、と白土さんにひょいと言われたんです。それで連れてこられたのが、この建物でした。私は川越には全く土地勘もなく、これが一体どういう場所なのかもわからなかった。道路側はすべてふさがっており、玄関もない状態でした」

工藤さんはBanonの2階でも個展を開催(kawagoe premium4より)

 

工藤さんの作品の写真集「ハルパリ」より。春になったらパリに行きたい、春のパリは幸せの象徴だそう

その当時、工藤さんは大工の仕事も忙しく、また、銀座で数々のパズルアートの個展も開催していたため、話しはそのままになり約4年が過ぎました。

しかし、やはり自分で何か手掛けたいという気持ちが強くなり、今年の夏、再び物件の事を白土さんに問い合わせみたところ、手つかずのままということで、あらためてこの建物と向き合うことになりました。

 

「大家さんに鍵を借りて中に入ってみたところ、これはちょっと・・・難しいかなと思いました。その後、大家さんともお話したり、お隣の木元さん(木元洋佑建築設計室)にも以前計画された図面を見せてもらったりしました。そんなやりとりもあって、よしやろうと決めました」

 

古い建物は開けてみてびっくり、今では考えられないようなことが施されていたりします。また、天井からは光が漏れて雨漏りし放題という事も多く、ここの長屋も例外ではないようです。

穴が開いている箇所も

 

目の前の課題を解決しながら、約3か月一人でコツコツと作業をしてきました。

この日は、工藤さんが「鳶頭(かしら)」と呼ぶ、鳶職の方が1階の厨房になる部分の土間コンクリートの作業中でした。

実はこの方、すぐ近所でお仕事していたところを捕まえて(!?)、ちょっとこちらでもやってもらえませんか?と声をかけて来てもらったとのことでした。

バレるとまずいから映さないで(笑)実はちょっと恥ずかしい・・

 

階段がまだ取り付けられていなかったので、脚立を上がって2階をのぞかせていただきました。

1階の天井はそのまま2階の床になっており畳が敷かれていたと聞いて驚きましたが、2階床は補強がほぼ仕上がってしました。建物を支える太い柱のみ残し、他の柱は取り去っているので、表から想像するより広く感じます。

奥に見える小部屋はアトリエにしたいとのこと

 

天井を取り外した際にできた、隣の部屋(木元洋佑建築設計室)との隙間を埋める作業にまもなく着手する予定です。

天井を取り去ってできた三角の空間。塗装作業に入る前に、ふさがないと匂いがとなりにまでいってしまう

 

とりあえず、1階は厨房を囲む6,7人座れるカウンターをつくり、窓はモンドリアン風にしてモダンな感じに、と考えており、年内には1階の玄関口までを仕上げたいとのことです。

 

「蔵の会からのお達しもあり、外観はなるべくこのままの状態を守りつつも、窓のガラスはモザイクを入れたりこじゃれた感じにしたいと思っています。川越は古い家々にもキチンと手が入り本当にきれいにしていところが多く、川越の職人さんはやはり腕が高いなと思い身が引き締まる思いです」

耳に鉛筆をさした姿、きまってます

内装はモダンな感じにしあげる予定とのことで、裏道のような場所にありながら、人を招き入れやすいたたずまいになるのが想像できます。

一体どのような場所、お店になるのでしょうか?

 

「Banon さんに通っていた 4 年前から比べて人通りが増えてきたのもあり、当初はカフェでいけるかなという考えもありました。そのときは銀座のギャラリーに行っていたので、あの雰囲気のものをここにも作りたいと思いました。若い人たちに場所を提供したいというのもありました。ただ、最初のうちはまったく集客も望めないと思うので、なんとかここをたくさんの人に来てもらって賑わせたいなと考えました」

 

工藤さんには、二人の息子さんがおり、長男は大手飲食チェーン店の店長、次男は元フレンチのシェフとのことで、このお二人が中心となってここのお店のメニュー考案やお店の切り盛りができればいいという構想はあるそうです。

 

「飲み歩きや食べ歩きが好きな人たちは、かっこよくって新しいお店がオープンしたら、一度は来てくれる人はいるかもしれないけど、二回目に来てくれかどうかはそのお店の実力ですよね。だからお客さんを見ながら色々決めようかなとも考えています」

 

ご自身はお酒は全く飲まないとのことですが、近隣の人たちの強い要望もあり、お酒が楽しめるオシャレなお店となるのは間違いなさそうです。

 

「この場所(店)のコンセプトとして、長い時間開けていたい、というのがあります。川越は観光客が多いですけど、夕方には閉まってしまうお店が多いですよね。どちらかというと地元の人にきていただけるようにしたいと考えています。だからいつ行っても開いていて迎え入れてくれる場所にしたいですね」

 

日中は、表通りは人が多いからということもあってか、小さな路地ながら地元の人たちがひっきり なしに行き交います。いつも前を通っている長屋で何やら大掛かりな作業しているので 、気 になる人もいるようで、何ができるのか聞かれることも多いそうです。

日中この道は地元の人が頻繁に行き交う

 

ところで、お一人で作業をされているとのことで、お店はいつ頃のオープンを目指しているのでしょうか?

大家さんには、年内にはと言っていたそうですが、あと2か月くらいでなんとかしたいな・・と真剣に考え込む工藤さん。

その姿を見て作業していた鳶頭から「花見の帰りに寄る感じですよね!氷川神社の裏あたりで花見して、こっちきて、ちょっと寄ってみるって感じ」と声があがりました。「ああもうやっている!そんな感じかなぁ~」と苦笑いしながらつぶやく工藤さん。そんな駆け引きをしながら、それいいね!いいね!と3人で盛り上がりました。

これから急ピッチで作業しないと!と語る工藤さん

今は構造部分の作業が中心ですが、これから造作、装飾、仕上げと進むにつれ、だんだんと人手が欲しくなる場面もでてきそうです。白土さんからのアドバイスもあり、来年にはワークショップも取り入れる予定とのこと。

どんなふうに仕上がっていき、どんな雰囲気のお店になるのでしょうか? 夜の川越が楽しめるそんなお店になるといいですね。

また取材して報告する予定です。

取材・写真 本間寿子


Information

工藤芳聖(ハルパリカンパニー)

【住所】川越市元町1-16 (付近)

長屋での作業は、月曜日から土曜日まで、9時から日没までの作業をしているとのことです。

■ Instagram (アーティストとしての作品が中心)

https://www.instagram.com/halpari/

※作業進捗は新しいアカウントで始める予定)

■ mukuhon (工藤さんのアーティストとしての活動がわかるサイト)

http://www.mokuhon.com/?p=1685

■ G I N Z A K O U S I N G A L L E R Y
http://kosin.blog76.fc2.com/blog-entry-238.html

■ Tokyo Art Navigation
https://tokyoartnavi.jp/artistfile/detail.php?artist_no=20001368

川越市元町1-16