川越の歴史とともに~明治時代の建築物『百足屋(むかでや)』
百足屋(むかでや)は2021年3月8日、カフェ、地域の名産品販売、茶道・華道・書道・日本舞踊などの日本文化の体験教室を開く場としてオープンしました。
百足屋は、上松江町(現在の松江町2丁目)に約380年前の寛永16年(1639年)に田口 吉兵衛によって創業され、糸や組紐の販売、鰹節問屋として人々に親しまれ、川越の街とともに歴史を刻んできました。
川越市指定有形文化財である田口家住宅。店蔵が1896(明治29)年12月、内蔵が1908(明治41)年5月、外蔵が1928(昭和3)年6月に建てられ、もっとも古い店蔵は、川越市指定文化財建造物に指定されています。

百足屋(むかでや)の外観
百足屋(むかでや)の名前の由来と丸型ポスト
百足屋(むかでや)の名前の由来は、田口家で行っていた商いの屋号「百足屋」を引き継いでつけられました。
「百足屋」という名前には、「千客万来」「商売繁盛」の願いが込められていると言われています。「客足が多い」ことを、足をたくさん持つムカデに喩えているのです。
また、看板のそばの赤い丸型ポストは田口家の蔵造りによく合っていたことから、使える状態のまま残されることになったといわれています。関東郵政局からの通達により、一定規模の都市では昭和60年(1985年)3月末をもって角型ポストへ交換されています。

百足屋の看板と赤い丸いポストが目印
古き良き蔵造りの建物を残し、再生活用を!
商いをするだけではなく、川越の歴史的建造物を残して再生活用したいというのは、株式会社百足屋 取締役の加藤忠正さん。
1981年に店蔵が有形文化財に指定された後も現役の店舗として活躍していたのですが、1997年に空き店舗になりました。取り壊して駐車場にする案も出ましたが、古きよき蔵造りの建物をこの先も残していくために、建物の所有者と地元住民とが協力し、伝統的建造物を再生させ、維持管理を行っていくことになりました。
百足屋がオープンする前は、20年以上空き家だったそうで、2020年秋に腐食していた床を張り替えるなど、改修を始めました。
店蔵は川越大火の復興のシンボル

店蔵の内部。ショーケースは当時のまま、明治時代の建築物の面影が今も残る
1893(明治26)年に起こった川越大火では、当時の町域の約3分の1、1,302戸が焼失したと言われています。
一方で、焼失を免れた家屋はいずれも耐火建築の「蔵造り」だったため、その性能の高さを再認識した町人たちは、蔵造り建築により町を再建してきました。こうして約3年のうちに200棟以上の蔵造りが建設されました。
その復興の真っ最中に建てられたのが、道路沿いに面した店蔵です。店蔵の2階の窓部分には、観音扉に銅板を貼って、耐火性を高めているそうです。
店内は座売りで、ショーケースも当時の物を極力残しながら、当時の姿をそのままに、現代の文化に融合しています。店蔵では、伝統工芸品や土産物を販売しており、百足屋オリジナル商品だけでなく、他にも川越ゆかりの商品も数多く取り揃えています。
ここでは、素敵な一品に巡り会えるかもしれませんね。

川越唐桟など、川越ゆかりの商品も数多く取り揃えている
住居部分には、和風のカフェを併設しており、本格的な和スイーツが楽しめます。DVDを見ながら自身でお茶をたてる体験型メニューも用意し、伝統文化を観光客に伝えています。
江戸の庶民文化を感じられる街川越だからこそ、魅力的な町家空間を感じつつ、特に外国人の方に日本の文化を知ってもらいたいので、そういった体験をしてほしいそうです。昨年、スーパーマーケットの外国人実習生も着物を着つけて、お茶や習字、簡単な日本舞踊を学んだりしたそうです。

「はつかり」や隣の「やまぶき」でカフェメニューや会席膳を味わえる
事前予約でお座敷でのランチ会席も利用できます。むかでや膳(3000円)、はつかり膳(4000円)、やまぶき膳(5000円)はすべて税込・ドリンク付きとなっています。夜の会席膳もそれぞれ3300円、4400円、5500円で利用できます(昼・夜いずれも2日前までに要予約)。
内蔵では着物を借りることもできる

1階は女性用の着物コーナー
住居部分の内部には、「内蔵」と呼ばれる土蔵が残っており、2階にのぼる急勾配の階段や柱、木製の雨戸なども建築当時のまま残されています。内蔵では着物のレンタルも可能です。
こちらのレンタルスペースでは、『きものや沙羅』さんが着付けをしてくださいます。
百足屋は蔵造りの町のすぐそばにあるので、そのまま和装で街を散策するのもおすすめです。蔵造りの街並み、川越氷川神社、喜多院などの主要観光スポットも徒歩圏内で便利です。
本格的な絹の着物は、レトロな雰囲気のものから現代風の華やかなものまで、幅広い年齢層の方にお楽しみいただけます。
レンタル着物では男性用のものも数多く取り揃えており、その脇には歴史のありそうな古い箪笥が並んでいます。
こちらは歴代のお嫁さんが嫁入り道具として持ってきたもので、一つ一つ年代の違うものだそうです。

2階に上がると年代の違う箪笥が並んでいる
店内外にはまだまだあふれる魅力
百足屋(むかでや)の魅力は、なんといっても、令和の時代においても昔の面影を感じられること。
昭和生まれの方は、懐かしさを感じるのではないでしょうか。
井戸の後ろに郵便のマーク。「切手類」「印紙」と書かれています。田口家が切手類を販売していた頃の名残と思われます。
田口家は、1980(昭和55)年に関東郵政局から郵便切手類の優良売り捌き人として表彰を受けたそうです。
また、時季によっては、花手水などもこのあたりで見られるかもしれません。
黒電話より古い電話があった!!
なんと中には古い形の電話が当時のまま残された電話ボックスがあります!
筆者が物心ついたころは黒電話がすでに普及していたため、詳しい使い方はわかりませんが、ドラマなどで回して使っていたのは記憶してます。
向かって右側についているハンドルを回すと、「ジリリリリ…」と音が鳴るそうです。
素敵な中庭に癒される
百足屋には、小規模ながら素敵な中庭があります。筆者が訪れたのは、雪が降った翌日で、まだそれが溶けずに残っていたこともあり、風情あふれる感じになっていました。
暖かくなり、緑の色が濃くなっても、また違った美しさが楽しめると思います。季節を変えて訪れるのもいいかもしれませんね。

1階から見る中庭も素敵だけれど…

2階から中庭を見下ろしても素敵です
様々な文化に触れながら…
百足屋では定期的に様々な文化に触れられる体験講座を開催しています。
蕎麦打ちやフラワーアレンジメント、和小物作りなど、気軽に参加できるプログラムを今後やっていきたいとのことです。そば打ちは、感染症が落ち着かないと難しいとのことですが、ホームページをチェックして、事前予約できるものがあれば、ぜひ予約してお出かけしましょう。
こちらのリースとしめ縄は、体験講座で制作したものだそうです。

クリスマスとお正月の飾り物もワークショップで作っちゃおう
Information
百足屋(むかでや)
【住所】埼玉県川越市松江町2-5-11
【電話】049-292-0075
【営業時間】11:30~17:00(変動あり)
【定休日】水曜
【Facebook】https://www.facebook.com/mucadeya/
【Instagram】https://www.instagram.com/mucadeyacat/