金子みすゞの詩の世界に初めて触れてきました〜第13回 おさらい会「金子みすゞをよむ」〜

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取材・記事 白井紀行

 

「金子みすゞ」は、大正末期から昭和の始めに活躍した童謡詩人。

26歳の若さで死去するまでに512編の詩を綴りました。

 

詩の時代背景や生涯を学びながら全集を5編ずつ読み進めていく「みすゞ塾」。

毎月第2・第4月曜日に蓮馨寺で行われています。

その朗読をみんなの前で発表するおさらい会が12月15日に開催されました。

場所はクラッセ川越6F多目的ホール。開始時間になると満員となった客席。

 

みすゞ塾を主催するのが川越在住の女優の谷英美(えみ)さん。

17歳で曽根崎中生監督「夜をぶっとばせ」で映画デビュー。

1999年に金子みすゞの生涯を描いた一人芝居「空のかあさま」を主演。

その上演をライフワークとするアロンシアターも主宰しています。

 

「金子みすゞの詩の数々を織り成す世界をお楽しみいただければ。」

と開幕の挨拶が終わるとザーッと波の音。朗読の始まりです。

 

1.阿仁屋洋子さん

海の鳴る夜は 冬の夜は 栗を焼き焼き 聴きました

金子みすゞが生まれた山口県長門市仙崎町は、かつて捕鯨で栄えた町。

その頃のことを唄った「鯨捕り」。

 

そして、「鯨法会」、「大泊港」、「弁天島」、「海の果」。

選ばれた5編にはみすゞが生まれ故郷の仙崎の姿が描かれています。

 

2.幕内史子

わかいもづくの芽がもえて  水もみどりになつてきた。

春を迎える仙崎の海を綴った「お魚の春」

 

「空の鯉」、「海とかもめ」、「日の光」、「しあわせ」。

私たちが気づかない視点にハッとさせられるような5編。

 

3.生島秀子さん

もくせいのにおいが 庭いっぱい。

風がもくせいの匂いをかき消してしまわないかと躊躇する「もくせい」

 

「星とたんぽぽ」、「金平糖の夢」、「夜ふけの空」、「見えない星」。

私たちが気づかないところにいるモノたちの心を綴った5編。

 

4.万年山えつ子さん

お天気 お天気 川辺の梢で

秋の澄んだ空の様子を描いた「秋の空」

 

「空のあちら」、「ぬかるみ」と、空をテーマにした3編が続く。

「くれがた」、「にわとり」の2編は不思議な読後感のある作品でした。

 

5.豊岡清子さん

親指の爪は 平たいお顔 丈夫そうなお顔 わたしらの先生。

自分の爪を見ながらかつて出会った人の思い出を重ね合わせた「爪」

 

「魚市場」、「浦の神輿」、「となりの杏」、「船のお家」。

「浦の神輿」は、波、波、人の波という韻の踏み方。

やつさァやつさ、やつさァやつさ。じやんぶり、じやんぶり、じやんぶりこ。

情景を表現したオノマトペがとても豊かな作品です。

 

6.礒部幸江さん

私は見たくてたまらない 小さい蜜柑みかんが蜜柑の木に

「田舎」「田舎の絵」「美しい町」は、絵の中の情景に思いを馳せた3編。

 

「粉雪」は冬、「野焼きのわらび」は春の情景を唄った2編。

 

7.佐藤満也さん

おほきな象にのりたいな 印度のくにへゆきたいな。

それがあんまり遠いなら、せめてちひさくなりたいな。おもちやの象に乗りたいな。

おもちゃの象に乗ってやりたいことに夢を膨らませていく「象」

 

「金魚のお墓」、「老楓」、「船の唄」の3編は老や死を意識させます。

「すかんぽ」は佐藤さんの故郷の秋田弁で朗読し、深い味わいがありました。

 

8.王子田充子さん

垣がひくうて朝顔は どこへすがろとさがしてる。

すがるもののないまま日々伸びる朝顔の成長を見つめる「朝顔の蔓」。

納屋のひさしまでもう少しだよと応援する気持ちが込められた詩。

 

「薔薇の根」、「竹とんぼ」、「夕顔」までの4編は生きる力強さ。

最後の「雪」は美しい死を唄った詩です。

 

9.網代三千子

耳もとでおしやべり雀の聲がして 電信柱は眼がさめた。

町の片隅に立つ電信柱が見た1日の光景を描いた「電信柱」。

 

「となりの杏」、「おてんとうさんの唄」、「襖の絵」、「ざくろ」

どこかで目にした光景が脳裏に浮かぶような5編の詩でした。

 

金子みすゞのもう一つの故郷「下関」

ここからは谷さんのトークと朗読のコーナ。

谷さんは今年の3月10日、金子みすゞの命日に大人の修学旅行を行いました。みすゞが命を閉じた下関で開催した2度目のトリビュート公演を鑑賞し、長門市仙崎を訪ねるツアーです。

金子みすゞというと生まれ故郷の仙崎に注目されることが多いことから、今回は「金子みすゞと下関」をテーマにしたのだそうです。

 

みすゞが若すぎる晩年を過ごした街

下関にはかつて数多くの遊郭があり、26歳でこの世を去った金子みすゞが若すぎる晩年を過ごした上新地にはその当時の街並みがそのまま残されています。病気の体で乳飲み子を抱え家賃が払えず追われるように2年間で3度の引っ越し。あまり幸せではない結婚生活を過ごした上新地。

この地で綴られた胸に沁みる詩の数々、想像力に溢れる夢のような世界、子供心を唄った晩年の作品に、金子みすゞの悲しみと強さ、凄すぎる凄み、詩人としての執念、才能をその身を置いた時に感じ取ったという谷さん。

しぼしぼ雨に 日ぐれの雨に  まだ灯のつかぬ  街燈がぬれて

「寒のあめ」に始まり「光の籠」「お魚」「土」「明るい方へ」「女の子」。

6編の詩には、谷さんのその時の心象が託されているかのよう。

 

童謡詩人金子みすゞのもう一つの故郷

大正12年に長門市仙崎から下関に移り住んだ金子みすゞは、ハイカラな空気に刺激されて当時大流行していた童謡の雑誌に詩の投稿を始めました。

5編の詩が4つの雑誌に掲載され、大御所西条八十が「若い童謡詩人の中の巨星」と絶賛。

 

下関は、金子みすゞが華々しいデビューを飾った誕生の地であり、散っていった街。

光りと影が凝縮したもう一つの故郷と言えます。

あおいキネマの 月が出て キネマの街に なりました。

「キネマの街」「ピンポン」「初秋」「広いお空」「闇夜の星」

5編の詩からみすゞが大都会下関で暮らし始めた時の想いが伝わってきます。

 

一瞬の流れ星のようだった金子みすゞ

金子みすゞは、明治36年に日本海に面した小さな街、長門市仙崎に生まれました。男尊女卑の時代に輪をかけて封建的な長州で、あがきながらも大正浪漫を駆け抜けた一瞬の流れ星のようだった金子みすゞ。

 

みすゞの呟きのような、願いのような、辞世の句のようだと谷さんが選んだ4編。

あがる  あがる 花火 花火は なにに やなぎと毬に

「花火」「唖蝉(おうしぜみ)「わらい」「御殿の桜」。

いずれもグッと心に沁み込むような詩でした。

 

みんなちがってみんないい

エンディングは、みすゞ塾のテーマである「私と小鳥と鈴と」を全員で朗読。

 

わたしが両手をひろげても  お空はちっともとべないが

 飛べる小鳥は私のように  地面(じべた)を速くは走れない

私がからだをゆすっても  きれいな音はでないけど

あの鳴る鈴は私のように たくさんな唄は知らないよ

 

すずと 小鳥と それからわたし 

みんなちがって みんないい。

 

東日本大震災のときに何度も繰り返し流された「こだまでしょうか」

記者も今まで、金子みすゞの詩というとこれくらいしか知りませんでした。

記事をまとめるなかで初めて詩に触れ、その凄さに圧倒されるばかり。

詩を読むと金子みすゞと同じ視点に立ったような不思議な感覚にとらわれます。

その魅力を言葉で語るには記者の力は及びません。

なので、当日の様子を動画にまとめましたのでご覧下さい。


INFORMATION

みすゞ塾 第13回 おさらい会「金子みすゞをよむ」

【開催】平成30年12月15日(日)15:00〜16:20

【場所】クラッセ川越6F多目的ホール(川越市菅原町23-10)

【主催】みすゞ塾

【問合】090-6147-4160(佐藤)

【HP】http://www2.u-netsurf.ne.jp/~apro/

【Blog】http://www2.u-netsurf.ne.jp/~apro/bin/emi_blog/diary.cgi

【FB】https://www.facebook.com/emi.tani.10

 

谷英美さんの今後の予定

 

http://yokohama-ywca.jp/notes/schedule/_-_-.html

 

http://kitamoto-cultural-center.com/hallevent/2018/12/post-241.html