街の風景にゆったりと浸りながら始めるエリアリノベーション〜カフェ&ギャラリー38℃〜
取材・記事 白井紀行
県内では珍しくなった片屋根式アーケードが続く霞ヶ関「角栄商店街」。
昭和40年代の高度成長期時代に角栄団地とともに開発された商店街。
半世紀が経ち、店主の高齢化や跡継ぎの問題でシャッターを下ろす店が目立ちます。
7月15日、この一角に光明が差すかのように新たな店がオープンしました。
店の名は「38℃(さんじゅうはちどしー)」。
このちょっと変わった名前のお店の店長が吉田尚平さん。
「商店街や地域をぬるま湯のようなゆったりとした雰囲気の場所にしたい」
そんな思いが38℃には込められています。
あるいは、温泉好きの吉田さんが長湯ができるベストな温度が38℃。
38℃がどんな風に始まって、今日を迎え、これからどんな風にやっていくのか?
その物語がオープニングイベントで語られました。
38℃の始まりは昨年のまちづくりキャンプ
38℃を運営する6人は「合同会社オンド」のメンバー。
彼らの出会いは、川越市産業振興課が主催した「まちづくりキャンプ」。
霞ヶ関北地区の価値を高める事業を考え実践するプログラムで一緒のチームでした。
https://www.city.kawagoe.saitama.jp/event/main/koza/machicam181026.html
https://www.facebook.com/kawagoearearenovation/
まちづくりキャンプの後、対象としていた物件がまとまらず、事業計画を練り直す。
これを2回繰り返して3回目で物件が決定し、3月に法人化し、4月に工事をスタート。
6月1日にプレオープン、そして、7月15日に正式オープンを迎えました。
カワゴエ・マス・メディアが追った38℃の軌跡
カワゴエ・マス・メディアでもオープンまでの軌跡を記録していました。
まずは、そこからオープンまでの半年をざっと振り返りましょう。
かわごえビジネスプラン発表会(2019年1月26日)
川越市商工会議所主催で金融機関、創業支援機関の前で事業プランを発表。
38℃のテーマは「街の『適度な温度』を維持する事業形態について」。
▶︎ https://www.kawagoe.or.jp/businessplan2019/
エリアリノベーション・シンポジウム(2019年2月17日)
川口市でカフェ&ギャラリーを営む「senkiya」高橋さんによるセミナー。
植木屋の敷地内に小さな店が集まり魅力ある場所になるまでの物語がテーマ。
その会場で、38℃は事業化に向けたプレゼンテーションを行いました。
ヘルシーごはん対決
シンポジウムから1週間後、38℃が霞ヶ関北で遂に動き出しました。
カフェを開くにあたり、パンとコメのご飯が好きかを調査するイベント。
SNSやチラシを見た地元の間でもパンかコメかと話題となっていました。
その一日の様子は、カワゴエ・マス・メディアでも記事にしています。
https://koedo.info/190319ondo/
その1ヶ月には、パンとコメが仲良くというコンセプトでメニューを提供。
中華粥、揚げパン、白キクラゲのサーラータン、杏仁豆腐のセットは好評でした♪
第2回かすみがせき100円商店街(2019年5月6日)
ゴールデンウィーク最終日に開催された100円商店街。
38℃のメンバーもオリジナルドリンクの販売。
4月から始まった内装工事中の建物見学。
ポットで沸かしたお湯を使っての38℃の足湯体験の組み合わせ。
こうして、彼らはゆっくりと商店街へ溶け込んで行きました。
DIYでカフェ作り(2019年5月18日/壁の塗装)
みんなで一緒にDIYでのカフェ作り。
記者も5月18日の壁塗りに顔を出しました。
塗っているのは黒板塗料。つまり、奥の壁を大きな黒板にする作戦。
このイベントを知ったきっかけを尋ねると「100円商店街で」という答え。
100円商店街で配布していたチラシが功を奏したようですね。
38℃の調理場となる屋台には屋根がついて本格稼働。
手伝いに来てくれた人にコーヒーを振る舞い機能を発揮していました。
子ども達を中心に一日かかって奥の壁を塗り終えることができました。
乾いたところは、早速、落書きで埋め尽くされる。
落書きは常に今描き変えられていて訪れるたびに色んな表情を見せます。
中央に構えるのは「Lady’s Fashion オオトモ」だった頃の名残の棚。
これがカフェ&ギャラリー38℃を印象付ける大きな役割を果たします。
DIYでカフェ作り(2019年5月25日/床の仕上げ)
この日は床の仕上げのDIYの日でしたが記者は所用があり訪れたのは夕方。
黙々と仕事をする吉田さん。他のメンバーは?と尋ねると向かいに居るとのこと。
道路を挟んで少し斜め向かいにあるこちらも38℃の拠点。
外観からは想像もつきませんが、元はなんとお寿司屋さんだったそうです。
中では二人がおしゃべりをしながらの工作の真っ最中。
机に置いてあるのは、大きくプリントした38℃のロゴマーク。
この看板作りなのでした。
6月1日にプレオープン(2019年6月15日に訪問)
こうして、地元民を緩やかに巻き込みながら6月1日にプレオープンした38℃。
ハンドドリップでコーヒーを淹れる姿も様になって来た吉田さん。
黒板に描かれた落書きは、子ども達が数多く訪れた証(あかし)
白い棚は本棚として本を中心に様々な品物が置かれ始めていました。
どんな風に使って行くは、これから考えていきたいそう。
試作中のショップカード(兼しおり)やコーヒーパス。
グランドオープン(2019年7月15日)
4月から地元の協力を受けながらDIYで工事を進めて来た38℃。
徐々に関心も高まる中、7月15日にグランドオープンの日を迎えました。
作業を通じて接点が生まれ、徐々に築かれ始めていた関係性。
それは、開店を祝う大勢のお客さんが詰めかけことでも分かります。
38℃がこの場所を選んだ理由(わけ)
13時になり、吉田さんのプレゼンテーションがスタート。
38℃のこれまでとこれからが集まった人たちの前で語られます。
吉田さんが、霞ヶ関北を選んだ理由。それは、この街の「風景」にありました。
アーケードには椅子やベンチが置かれ、いつも誰かしらが座っている「風景」。
ふらっと買い物に出かけて、おっちゃんと喋りながら野菜を買う。
次は、豆腐を買って帰るという生活と商店街が密着した「風景」。
自分の畑で作ったネギを売る。色んなものが交換される「風景」。
常に周りの人と接する「風景」に美しさを感じた吉田さん。
自分の仕事と周りの人間との関係を繋いでいきながら生活していければ。
それが、この街に決めたきっかけなのだそうです。
その思いは「ぬるま湯」のような場づくりというコンセプトで示されています。
このコンセプトをどうやって実現していくか?
点を作り、線を伸ばし、面に広げるというのがエリアリノベーションの考え。
38℃では、それをこの街にあてはめて展開していきます。
最初の点となる38℃
地域に最初に打たれる点、地域の交流拠点の役割を果たすのが「38℃」。
ここに地域の外の情報が中に集まり、ここから中の情報を外に発信していきます。
そのために、38℃には4つの機能が用意されています。
1つ目の機能「ギャラリー」
情報交換の中心を担うのがこの白い本棚を利用したギャラリー
棚は貸しスペースとなっていて、借主は思い思いに本や物を置いていく。
この棚の借主は様々な本とともに自身が書いたボブディランの論文を展示しました。
すると、論文の中にある曲のレコードを違う人が持って来て飾っていく。
棚は人同士の繋がりが生み、色んな物が寄せ集める機能を果たします。
2つ目の機能「カフェスペース」
ふらっと寄って飲んだり食べたりできる喫茶店。
屋台という強みを生かし、イベントの時は外にも出ていきます。
クッキーに加え、近くにある「ベッカライ0044」のサンドイッチ販売もスタート。
いつでも立ち寄れるように1日1杯で1ヶ月間飲めるコーヒーパスも販売中!
3つ目の機能「貸しスペース」
ワークショップや映画の上映会、ライブ、絵本の読み聞かせ。
あるいは誕生会をやりたいなどの個人的な形でも使える貸しスペース。
4つ目の機能「仕事や勉強のスペース」
棚の裏は個室っぽくして勉強や仕事ができるスペースとしての機能。
Wi-Fiや電源も完備しているので隠れ家的に使うことができます。
38℃を運営しながら地域のつながりを作る
38℃のお湯のような長く浸かれる心地良い温度をコントロールするのが「湯守」
これが合同会社オンドでの吉田さんの役割で店長として専従。
他の5人は調理、イベント、経営など、自分の職能を活かして運営に参加します。
38℃を商店街、自治会、近所住民の人に利用してもらいながら関係性を築いていく。
そこに、デザイナーや作家さんが現れて街をもっと面白くしていく。
運営しながら地域のつながりを作る発信拠点となることを目指します。
ここから、冒頭に紹介したような開店までのエピソードが語られました。
BSテレ東の30分ワンカット紀行に出演した時の話し。
作業をしてたら周りの人がお菓子や食べ物を持ってきてくれた話し。
屋台を保健所まで運んだ話し etc.
開店までのドラマは、実際に吉田さんに聞いてみて下さい♪
38℃が描く街のこれから(点から線、そして面へ)
プレゼンテーションの最後に、38℃が描く街のこれからが語られました。
今は一つの店にギャラリー、カフェ、貸しスペース、仕事スペースの4つの機能が同居。
その機能の一つであるギャラリーを斜め向かいの店舗に移すのだそうです。
2つの店を連携させると点と点が結ばれて線になる。
さらにその先も工事して線を伸ばしていけば、やがて面として展開していく。
これには38℃だけの力だけでは不可能なので、周りの人にも働きかける。
街に愛着を持ってもらうことでエリア全体の価値を上げていく。
それが38℃が目指す街のこれからです。
ふと壁を見るとメモが貼り付けてありました。
実現できるかどうかは別にして、何か思いついたら書きつけるだそうです。
8月31日に伺うとこんな目標が掲げられていました。
過去と現在をつなぎ
未来へ向けて 持続可能な風景を作り出しながら
肩肘を張らず
しなやかに地域とともに生きることを目指します。
これは2月17日のエリアリノベーション・シンポジウムのプレゼンでの最後の言葉。
その言葉が今、動き始めました。
INFORMATION
38℃(合同会社オンド)
【住所】川越市霞ケ関北4-22-23
【営業】10:00〜18:00
【定休】水・日曜日
【HP】www.38degcel.com
【FB】https://www.facebook.com/ondo38/
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