子どもたちへ伝えたい大切なこと〜川越おもちゃの病院 小江戸おもちゃ119〜
おもちゃの病院「小江戸おもちゃ119」。
打ち合わせで公民館を利用した時に、この名前を目にしてずっと気になっていました。
取材の快諾をもらい、8月16日(日)に伺ってきました。
「小江戸おもちゃ119」は、現在約30名のドクターがいて市内7ヶ所で活動。
毎月第3日曜日は石原町にある「児童センターこどもの城」での開院です。
こちらが、「児童センターこどもの城 おもちゃ病院」の医院長の鈴木さん。
市内に7つあるおもちゃ病院にはそれぞれ医院長と副医院長、そして、ドクターという陣営。
この日は、8名体制で患者さんを受け入れます。
鈴木さんが手にしているのは、今日退院するネコちゃんのぬいぐるみ。
その日に直らなかった患者さんは入院し、ドクターが持ち帰って治療にあたります。
申し込みで使う診察申込書は、問診票とカルテになっています。
治療をした患者さんには、ドクターの所見票や診察券が発行されます。
なお、治療費は無料ですが部品を交換した時は、実費が必要なこともあります。
‖ 最初に来たのは「ファービー」
最初に来た患者さんは、1999年にトミーから発売された初代ファービー。
話しかけるとファービー語を喋るのですが、この子は電池を交換しても黙ったまま。
新品の電池を入れてもテスターで計ると電圧は1.3Vと少し低く表示される。
内部まで分解する必要がありそうなので、治療の方法を他のドクターとも相談。
傷つけないように丁寧かつ慎重に接着剤を外して行きます。
配線切れなど目で追える範囲での異常は見つからない。
「基板を調べてみないと分からないね」と医院長と相談。
ファービーは入院となりました。
このあと、基板を専門に見るドクターに引き渡して治療をするそうです。
‖ こんな風に歌うんだ!
冒頭で紹介したネコちゃんのお迎えがきました。
耳のスイッチを押すと「ニャニャニャー」と歌い始めるネコちゃん。
思わず笑顔がこぼれる女の子と「良かったねぇ」と頭を撫でる両親。
このネコちゃんは、お母さんが友だちから貰ったときに既に鳴かなくなっていた。
「こんな風に歌うのね、初めて聞いたわ」とお母さんも嬉しそう。
ネコちゃんを抱えて仲良く帰って行く家族の後ろ姿がとても印象的でした。
お盆の終日ということもあって、今日の患者さんは少なめ、のんびりムード。
多い時は30件を越える患者さんが来院して大忙しのときもあるそう。
また、伊勢原、大東、高階といった子どもが多い地域の公民館では、やはり患者さんも多いとのこと。
‖ 修理の定番「プラレール」
次の患者がやってきました。
持ち込まれたのは「プラレール」で、おもちゃ病院への依頼では定番もの。
故障で特に多いのは電池切れや接触不良、配線切れなどの電池周りのトラブルだそうです。
床板を止めているネジは頭がなんと三角形! こんな形のネジを見るのは初めてです。
その場で対応できるように、それぞれのドクターは沢山の工具を抱えています。
プラレールの構造が示された図面と部品の写真。
他のおもちゃについても、分解手順をひとつひとつ写真に撮ってマニュアルにされていました。
同じように見えるプラレールも内部の構造は時代とともに変わっている。
だから、常にそれに対応していかなければならないそうです。
ギアーボックスに直接、電池を繋いでも動く様子が無い。
ギアーボックスを分解して歯車のゴミを取り除く。
中には、これだけの糸くず等が詰まっていました。
モーターの故障と分かり手持ちのモーターと交換して復活です。
江の電はスイッチの接触不良、茶色いの機関車は歯車に付いていたゴミを取り除いて動き出しました。
直ったプラレールを動かして確認してもらう。
「ありがとう」とお礼をいい、大事そうに紙袋に詰めて帰られました。
‖ ワンちゃんの骨折手術
次の患者はワンちゃんのぬいぐるみ。右後ろの足が骨折してブラブラしています。
縫い目の糸をカッターで慎重に切っていきます。
足の骨がポッキリと折れています。
竹のピンセットを使って患部を確かめる様子は、本当の手術を見ているかのよう。
どうして折れた骨を直せばいいのか、治療方法をみんなで検討。
こういった場合は、針金やプラスチック板を使って折れた骨を繋ぐのだそうです。
開院時間内に治療が済まなかったのでワンちゃんも入院です。
退院は来月の開院日、それまでには元気になっていることでしょう。
‖ 一日削ってたよ
ワンちゃんと一緒に持ち込まれた赤いバスは、前輪の左がグラグラ。
「このシャフト(車軸)からタイヤを抜いて、もう一度はめ直してみよう」と治療の方針が決まりました。
しかし、このシャフトを外すのにかなり苦戦。
ドリルやガスバーナーを使って何とかタイヤを外したい。
工作台で何か一生懸命削っています。
できたのは、タイヤを傷つけたりせずに取り外すための特製の治具。
「結局、一日掛かってこれを作っていたよ」と笑顔で語る。
‖ 直してあげたいという「思い」
続いて持ち込まれたのはチョロQが4台。
ゼンマイで動くおもちゃですが、おばあちゃんが力を入れすぎて壊してしまったそうです。
おもちゃコーナーに気付いて、チョロQを持ち込んだ男の子が遊び始めました。
これらは寄贈されたもので、おもちゃで遊びにくるだけでも構いません。
こどもの城に来ておもちゃ病院を知り、次回の開院日に来られる方も多いそう。
小さい方のチョロQは、ギアーボックスを掃除してグリスを塗って動くようになりました。
鮮やかな手つきでチョロQをばらして行きます。
おもちゃ病院の開院は、今から13年前に中央公民館で行われた講習会がきっかけ。
「小江戸おもちゃ119」に在籍する約30名のドクターのうち半数はその時のメンバーだそうです。
5回の講習を受ければドクターになれますが、大切なのは「直す」という気持ちなのだそうです。
その思いから、普通なら諦めてしまうギアーボックスにも治療の手を施す。
そして、歯車やゼンマイなどの部品レベルまで分解して行く。
もし、歯車の歯は欠けているのなら、それを交換してまた動くようにする。
部品が無ければ大きな歯車から削りだして作ることもあるそうです。
持ち込まれたうちの2台は専門医に引き渡されて入院することになりました。
直ったチョロQを手に大喜びの男の子。
その様子を見ながら「このチョロQにはこの子もとても思い入れがあるんです」と母親。
ここで、「ハッ」と気付きました。
チョロQは、そんなに高額なおもちゃではありません。
だけど、壊れて泣いている子に「新しいのを買って上げるから」と宥めたとしたら…。
簡単に次のおもちゃが手に入るのなら『物を大切にする』という心は育たない。
動かなくなって諦めていたお気に入りのおもちゃで、もう一度、遊べるようになったときの喜び。
それは、子どもに取っては何ものにも代え難い。
「小江戸おもちゃ119」のドクターが治療を通して知ってもらいたいこと、学んで欲しいこと。
その思いは言葉にしなくとも、直ったおもちゃと一緒に子ども達が受け取っているはずです。
WRITER NORI
INFORMATION
川越おもちゃ病院 小江戸おもちゃ119
【日時】川越市カレンダーをご覧下さい(開催場所によって開院日は異なります)
【場所】中央公民館、高階公民館、大東公民館、伊勢原公民館、環境プラザ(つばさ館)
児童センターこどもの城、川越駅東口児童館(クラッセ川越)
【HP】http://koedoomocha119.web.fc2.com/