インタビュー:荻原 羚大さん~レーサー・IATC2023レギュラーライダー
まだ中学生だけど、世界に通用する将来有望なバイクレーサーが川越にいる—
そんな話を耳にしました。
名前は荻原羚大(おぎわらりょうた)さん。2008年生まれ、もうすぐ中学3年生です。
2022年9月にアメリカのアラバマ州で開催されたバイクロードレース「MotoAmerica」に出場、ジュニアカップ第3位の成績を収めました。
その成果報告として、市長を表敬訪問。そのときの様子が、広報川越令和5年2月号の最終頁「ひとまちふぉとニュース」にも取り上げられています。
また、アジアとオセアニア地域のライダー発掘と育成を目的に開催するモーターサイクル・ロードレースの選手権大会「Idemitsu Asia Talent Cup2023」(以下IATC)のレギュラーライダーにも選出されました。
今年はさらに活躍が期待される羚大さんと、その活動を支えるご家族に、練習が行われているMoto-UP桶川スポーツランドまでお話を伺いに行ってきました。
それはポケバイから始まった。
羚大さんが、バイクに興味を持ち始めたのは5~6歳頃。バイク好きのお父さんと一番上のお兄さんの影響が大きかったそうです。
当時空手やフットサルといった習い事にも通っていましたが、バイクに乗るとなると、それなりに費用が必要になります。
「他の習い事は全部やめるようになるよ。しかも最初楽しいと思っても、だんだんつらくなる。それですぐやめるのなら、やらない」と、そんな固い約束を交わしたうえで、バイク一本に絞ることになりました。

ポケットバイクに乗り始めたのはまだ保育園のころ。写真提供:荻原大輔様
最初に乗ったのは、芝刈り機についているような小さなエンジンをつんだポケットバイク。
お母さん曰く、最初は楽しいと思って見ていたけれど、大きいバイクに乗るようになるにつれて、不安も大きくなっていったと言います。
「身体がまだ小さかった割に、乗るバイクはだんだんと大きくなってくるので、バランスが悪いというか、えー?大丈夫という感じでした(笑)」
そんな家族の心配をよそに、アクセルを全開にできた、膝が擦れるようになった、とバイクで少しずつできることが増える達成感が楽しかったと、羚大さん。
この膝が擦れるようになったというのは、“バイクを極限まで倒しているから”であり“膝スリは攻めてるライダーの証とも言える、勲章的なもの”なのです。
国内レース参戦、そして・・・
2015年7歳で初めて参戦したレースで、先頭を走り、ゴール目前で転倒してしまったものの、見事完走。9歳では、2つのサーキットでキッズバイクシリーズチャンピオンを獲得します。

桶川スポーツランドにて。ほこらしいガッツボーズ!
2021年の筑波ロードレース選手権の最終戦では、S80というクラスに参戦。
この年一番の思い出深いものとなりました。
「そのクラスで多分一番スピードの遅いバイクだったと思います。でも、コーナーで詰めて、トップ集団5台の中で一緒に走ることができて、とても自信がつきました」
2022年は9月には「MotoAmerica」ジュニアカップ参戦のため単身アメリカへ。
現地で初めて会うチームメンバーと合流し、異国の地で約一か月間家族と離れての生活を送りました。英語はまだうまくしゃべれないものの、フレンドリーな現地の人との交流も楽しんだそう。
「アメリカは小さなときに行ったこともあったし、なんとなく雰囲気は分かってました。過ごしやすかったし、食べ物も、ステーキ大好きなので、それほど苦労はありませんでした」
見事3位を獲得したレースでしたが、なんと一戦目は“参戦可能年齢の14歳になってからわずか二日後”だったとのこと。
そして、2022年10月にはマレーシアで開催されたIATC2023のオーディションにて、レギュラーライダーに選出されました。将来世界選手権を走るのにはずせない、いわば登竜門的な位置づけです。
※IATCは、セット・アップ等は運営組織が管理。参加者には、純粋に腕の差で勝負を争えるようなレース・システムになっています。車輌やタイヤからレーシングスーツにいたるまで、走行にかかる費用は、無償で提供されます。また、ライディングに関してのアドバイスの他に、外国人スタッフとのコミュニケーションのための英語カリキュラムも実施されます。
トレーニング&イメージトレーニング
レース参戦開始から7年で世界に大きく走り出た羚大さんですが、普段はどんなトレーニングをしているのでしょうか?
毎週のように桶川や栃木のサーキットを走っている他に、ダートやモトクロスコースを走ることもあるそうです。
「ダートとかモトクロスをやっているからと言って、レースが早くなるわけじゃないけど、たとえばタイヤが滑っちゃったとき・・ダートでは滑るのが当たり前だから、それに身体が対応できるようになるんです。結構役立っているかなって感じです」
アスファルトの上では得られない、二輪の感覚を養うのに一役かっているそう。
筋トレは、余計な筋肉がついてしまうので、バイクで使う筋肉はバイクに乗ってつけるとのこと。以前腕を骨折したときは、握力が落ちないように、ゴムボールを握っていたこともありました。
そしてもう一つ特別な練習方法があります。
「ゲームです。今出ているバイクゲームは、風景などもとてもリアルです。世界中に実際にあるサーキットがゲームの中にあるので、そのコースを走ってイメージトレーニングをします。ゲームの中でバイクのセッティングもできるので、それを変えて動きがどうかわるのか?も確認できます」と羚大さん。
お父さん曰く、初めてのコースでも、ゲームの中で何度も走っているので、コースの感覚をつかみやすいとのこと。
これは、羚大さんだけではなく、先輩レーサーたちも取り組んでいることなんだそう。
ゲームというと遊びの印象が大きいですが、レーサーにとってはイメージトレーニングの一環です。
・・・そしてやはり世界のレースに参戦するには、英語(の勉強)は絶対!なのだそう。

ライダースーツ、きまってます!!
目標は、小椋 藍 選手
羚大さんが目標としている選手は、同じ埼玉県出身の小椋 藍選手。
小椋選手は、3年ぶりに開催された日本GP のMoto2クラスで優勝。世界が注目する日本人ライダーです。
◆参考記事:Moto2日本GP決勝|小椋藍、母国で見事な優勝! 地元での日本人ライダー優勝は16年ぶり
「藍君は、速いし、バイクの動かし方がすごくうまいと思います。それ止まれるの?というところもクッと止まって、しっかり抜いていく。まだチャンピオンはとっていないけど、粘り強さみたいなところもすごいなって思います。・・・すべて持っているって感じです」
昨年の関東ロードミニ選手権では、ほんの一瞬ですが、小椋選手の前を走ることができました。その時の感想を聞いてみたところ、やったー!という喜びは全くなく、
「ど、どうしようかな・・・と。絶対抜かれるから、どこで来るのかな?と思いました(笑)」
小椋家も荻原家と同じ、ごく普通の一般家庭。
お父さんによると、小椋家が小椋藍選手を育て上げたように、荻原家もレーサーの羚大さんを育てているのだそう。
「基本的な理念としてあるのは、そのとき与えられたバイクのポテンシャルを最大限に引っ張り上げてトップレベルを走る事。速いバイクで速く走れるのは当たり前です。遅いバイクでも速く走らせることができたとき、速いバイクが与えられるんです。『速いバイクを与えられる自分になる』ということを目標にしています。今は個々のレースの結果をみると、良い結果がでていないと思われるかもしれないけれど、まだ進化の途中なんです」

桶スポでの一コマ。右はお父さんの大輔さん。メカニック&マネージャの兼務
ちなみに、普段サーキットで使用するバイクは、自前のバイクの他、協力会社やスポンサーから提供されたものや、レース主催者が用意してくれるものがあります。
レースで初めて乗るバイクに、どれだけすぐにアジャスト(合わせる)して乗りこなせるかというのも重要で、これも小椋家からの教えの一つだそう。
チーム・リョウタ・オギワラ
実際にレースに参戦となると、移動費用(渡航費用)の他にメンテナンス費用、メカニカルの人件費なども必要となり、かかる金額も膨大になります。
荻原家の収入は、ほぼこういった費用を賄うのに使われており、さらに不足分を補うためにスポンサーや協賛者を募っています。才能をもっている選手でも、よほど裕福でない限りは、時として直面する課題なのです。資金面については、お父さんにお話を伺いました。
「育成段階の選手って、宣伝広告効果がほとんどないんです。ライダースーツに大きくスポンサーの名前を入れて、専門雑誌に載ったとしてもそれを読む人たちは限られているし、“やっている人たち”なんです。外への発信力がほぼない。だから、スポンサーや協賛してくれる方を募るときには、宣伝広告効果は求めないでくださいと伝えています。将来の楽しみとして、資金を提供してもらっています。万が一世界選手権を走るようになったら、あのライダーの育成には、自分も一役買っているんだと思ってくれて、一緒に喜びを分かちあえればという感じです」
”荻原羚大”というレーサーを、世界の”リョウタ・オギワラ”にする、そのための応援団の一員になる、そんなイメージなのかもしれません。

写真提供:ささきてつお様
最後に、羚大さんに今後の目標を聞いてみました。
「来年は、一番いいのは、ジュニアGPに行けたらいいけど、一年でというのはあんまりない。来年は、タレントカップでしっかり勝って、チャンピオンをとる。次の年にジュニアGPに行って2年目でチャンピオン争いをして、18歳でMoto3(自動車レースでいうところのF3)に行けたらと思います」
※余談ですがこのMoto3に参戦できるライダーの最低年齢が2023年より16歳以上から18歳以上に改められました。
今シーズン最初のレースとなるのは、3月18日(土)に「モビリティリゾートもてぎ」で開催される、もてぎロードレース選手権とのことです。
Information
【プロフィール】
荻原羚大(おぎわらりょうた)2008年9月7日生まれ
・2015年からレース参戦開始
・2017年桶川、明智の2サーキットでキッズバイクシリーズチャンピオン獲得
・2018年ミニバイク(NSF100)にステップアップ
・2021年ロードコースでのレースに参戦
・2023年イデミツ・アジア・タレントカップに参戦
【SNS】
・Twitter: https://twitter.com/OgiwaraRyota
・Instagram: https://instagram.com/ryotaogiwara97
・Facebook: https://www.facebook.com/profile.php?id=100069682351671
【お問い合わせ先】
El Ganador97(エルガナドルナインティセブン) E-mail:ogiwara.family0801@gmail.com
【写真提供】ささきてつお 様/MotoUP桶川スポーツランド様/荻原大輔 様
【取材場所】Moto-UP桶川スポーツランド(https://okspo.jp/)