“おかあさん”として、母親として~戎谷 美野里さん「ゲストハウスちゃぶだい」女将~

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※この取材は1月下旬および2月中旬に行われました※

 

築100年を超える古民家。この建物を多くのひとたちの手により改修してできた「ゲストハウスちゃぶだい」が誕生して約1年と4ヶ月がたちました。

ちょっとこだわりのある旅を楽しみたい人にも、まるで田舎にある実家に帰ってきたみたいでくつろげるととても好評です。また、地元の人にも使ってもらえるように、昼はカフェ、夜はバー営業も行っています。

 

「あっという間で、過去のことは何も覚えていないです(笑)」と語るのは、女将をつとめる戎谷 美野里(えびすだに みのり)さん(通称:えびちゃん)です。

えびちゃんとの出会い

えびちゃんとは、川越市が2016年に開催した、エリアリノベーション講演会&まちあるきワークショップまちづくりキャンプに参加したご縁で知り合いました。

知識を学ぶというインプット型講座でなく、街のためにこうしたらいいと思うことを突き詰めて考え、グループの仲間と協力してアウトプットするというとても濃い取り組みでした。

その中で、当初からゲストハウスをやりたいという意志をもって参加していたえびちゃんは、そのひたむきさから周囲の人の気持ちを惹きつける存在でした。

 

ご自身では、あがり症なので人前で話すのはとても苦手とおっしゃっていましたが、まちづくりキャンプ最後のプレゼンでは、緊張感が伝わる震えた声に、その場にいる皆の気持ちがくぎ付けになり「頑張れ!」と応援の念を送りたくなるほど思いがあふれるものでした。

通りに面したハイカウンターにて。

そんなことを思い出しつつ、「ちゃぶだい」ができるまで、そして、母親になったえびちゃんのこれからをインタビューしてきました。

 

きっかけ・・

様々な国を旅して、いつかはゲストハウスをやってみたいと思っていたえびちゃんですが。まちづくりキャンプの前段に行われた、まちあるきワークショップに参加したきっかけは市の広報でした。

その年の11月には3日間のまちづくりキャンプが開催され、参加することなりました。

 

「まち歩きワークショップの時は、街の状況や空き家情報などが知れるかもと気軽に参加しました。市役所の方からも色んな情報を聞くことができて、ああ、物件については何となく見えてきたかなと。いざ本格的な講座(まちづくりキャンプ)となると、参加を悩んだんですよ。パソコン仕事もできないし、とても役に立てるとは思えなかった。でも、どんなふうに事業を開始したらよいのか勉強したい。どこかで頑張らないといけないな、と腹をくくって参加しました」

 

えびちゃんにとって、なんとなくぼんやりと考えていたゲストハウスのイメージでしたが、どんな宿にしたいのか?どんな人に来てもらいたいのか?等を徹底的に考え抜き、細部まで具体的に言葉にして、鮮明な絵にさせていくという3日間となりました。ちなみに、そのときに同じグループにいたのが、今の共同経営者である、田中明裕さんと、西村拓也さんでした。

 

「私としては、思わぬ大きな収穫になったのは『ちゃぶだい』という名前がついたことです。話し合いの中で、ふとちゃぶだいを置きたいんだよね、と言ったところ、じゃあそれでいいんじゃない?と。ストンと気持ちに入ってきました」

大きな丸いちゃぶだいで経理のお仕事中。

そして、金融機関や物件のオーナーさんをはじめとした約30名の前での最終プレゼンが終わり、出来立ての事業計画書を握りしめ、仲間たちといざゲストハウスをつくろう!と熱い気持ちで活動を開始しました。

 

物件見つからず・・・

しかし、目当てにしていた物件は、オーナーさんの都合で使うことができなくなってしまい、意気消沈。

こういうときは、一気にやる気が冷めてしまうことも多いのですが・・・

 

「じゃあ、あきらめるのか、と思ったんですが、そのときやっていた仕事をしながら、物件を探すことはできる。あきるまでやってみればいいのかな、と思って活動は続けました。」

 

気持ちを切り替え、良い物件をさがしつつ、今まで人任せにしていたり、足りないと実感していたビジネスの知識を学ぶために創業スクールに通うことにしました。

 

ちゃぶだいと障子、そして畳。ここはリラックスできる居間。

「起業の基礎を学ぶこともできたし、同じ志をもつ仲間に出会えたことや、色んなゲストハウスに行って色んな話を聞いたりする時間を持つこともできました。あの時すぐ始めてしまっていたよりも良かったのかもしれないです」

 

なによりも、ご縁があり、理想的で素敵な古民家に出会うことができました。それが今の「ゲストハウスちゃぶだい」です。

まさかの・・

ところが、ゲストハウスプロジェクトを本格的に始動させようとした矢先に、えびちゃんの妊娠がわかります。

 

「果たしてやれるの?と不安でした。子供ができたら何が変わるんだろう?って考えてもわからない。もちろん仲間にも相談して、とにかくやれるところまでやってみようと。やってみてできなかったら、ごめんなさいしようと思いました」

 

書類の取り交わし、内装決めなど様々な手続きの後、夏に始まった「ちゃぶだい」のリノベーション工事。

大工さんが入ってくれたおかげでワークショップも開催でき、暑い時期でしたが、たくさんの人が参加、リノベーション作業にかかわってくれました。

そのうち普段も近所の人たちが手伝いに来るようになり、メンバー以外の誰かが毎日何かしらの作業をしているといった状態になりました。

参加した誰もが、ワクワクを感じながら、ともにつくりあげた“場”になったのではないでしょうか?

プレオープンに当たるお披露目会には、ひっきりなしに多くの人が訪れて、ちゃぶだいメンバー一同も驚くほどの盛況ぶりでした。

そのころエビちゃんは生まれたばかりの赤ちゃんをつれていました。

 

ゲストハウスがはじまった・・

ちゃぶだいがゲストハウスとして、本格的に宿泊客を受け入れるようになったのは2019年の年明けからです。

最初はちらほら入っていた宿泊予約も、ゴールデンウィークの頃になると、予約が増え、カフェの営業とともに忙しくなりました。

小さなお子さんがいるえびちゃんは、他のメンバーと交代で、週に2日ほど宿直を担当しています。(※2020年3月の時点。現在ちゃぶだいは5/9(水)まで全館休業中です)

ちゃぶだい中庭にある澤口眼鏡舎さん。えびちゃんの眼鏡もこちらのもの。

えびちゃんには当初は、自分の居場所であり、分身のようなゲストハウスをつくりたい、という強い思いがありました。

実際、女将としてゲストハウスを始めてどうなのでしょうか?

 

「お客さんがいらっしゃる夜は、なかなか宿に出ることができず、あまりかかわれていないんです。そんな状態なのに、私がこの宿の女将ですと前面にでて名乗るのも、なんだかはばかられちゃいます。それに私が率先して動かなくても、お客さん同士はどんどん自然に仲良くなっていきます。そういう場をうまく作ってくれるスタッフもいます。だから私は、何か助けが欲しそうなお客さんがいたら、手を貸したり快適に過ごせるよう、そっと見守ったり、スタッフが働きやすいように気を配る、 “おかあさん”みたいな立場でいいのかなって思うようになりました」

 

ちゃぶだいは自分一人の色を出す場所ではなく、みんなの場所、いろんな人がかかわって成長していく場所であった方がいいのかもしれないと、気持ちが変化してきたと言います。

色んな人がかかわっているからこそなりたっていることや、人とのつながりで、いくつものイベントも開催することができました。

 

えびちゃん曰く、独身だった頃に考えていたゲストハウスは、ほぼ形になってきているとのこと。でもお子さんができた今のライフスタイルを過ごすうちに、少しズレが生じてきたと言うのは、当然の事かもしれません。

 

そして、小さな葛藤も生まれているようです。

それは、ちゃぶだいでは「おかあさん」という立場でいるけれど、家では週に2日ほど母親がいない、それが子どもにとって当たり前になってしまうというところに少し寂しさがあると言います。

縁側でのんびり。虫取り用の網もよい味。

 

家族といたい、家具職人である旦那様の仕事も一緒に楽しみたい、という思いは話を聞いていてもひしっと感じました。そんなえびちゃんは、少し先の未来に思いを巡らせています。

 

「子どもが小学校に上がる頃には、自宅と家具の小さなショールームと一部屋だけの民泊を、なんてことを考えています。小さな工房も作って、そこで家具の端材で工作できるスペースを設けて、いろんな子供たちに集まってもらい楽しんでもらえたら。さらにそこに来たお母さんたちの家具の相談にものってあげられるといいなと思っています。でも、そうできるようにするには、まずはきちんと『ちゃぶだい』を軌道に乗せるのが先ですけどね(笑)」

 

新しい夢を描きつつ、やはり「ちゃぶだい」はえびちゃんにとっては、かけがえのない居場所です。

1年目は日々のルーティンを作りあげるのにとにかく必死だったとのことですが、2年目は、えびちゃん自身が、ちゃぶだいをもう少し面白がって使えるようにしてきたいと考えているようです。

たとえば、何げなく食べているものがどうやって作られているのか、どこから来ているのかといったことに触れられるイベントや、今の農業を考えるドキュメンタリー映画の上映会の開催等々。

このインタビュー記事とあわせてご紹介しようとしていたイベントは、残念ながら中止となってしまいましたが、平穏な日常が戻ったら、えびちゃん企画のイベントは開催されるはずですので、是非ちゃぶだいさんのSNSをフォローしてチェックしてみてください。

そしてイベントのみならず、地元の人に日常使いをしてもらえるようにも思案中です。

 

リクエストしたポーズをちょっと恥ずかしそうにとってくれました。

「私個人の意見ですけど、子連れの方にもっと使ってもらってもいいのかなとも思います。赤ちゃんを連れていけるところって、意外とないなと気が付きました。居間でごろんとしてもらってもいいですしね。外から見て、なんだかにぎわって楽しそうって思ってもらえたらいいな。予約がなくても居間を昼間貸し出すということも前向きに考えています」

 

ゲストハウスをやってきてよかったこと、大失敗した数々をとにかく楽しそうに話してくれたえびちゃん。あの時のプレゼンの姿とは違い、なんだがとても頼もしい感じがしました。

どうもありがとうございました。

☆インタビュー録音の日は、コータ・バーの夜でした。えびちゃんの声の後ろには「こんばんは~」と地元の人が次々に集う声、そして笑い声が響いていました。そんな楽し気な声を、コータ君特製の唐揚げをあげる”じゅわ~”という音がかき消し、とてつもない日常の幸せを感じました。このあたりまえの毎日が早く取り戻せますように。

 

早くこんな日常がもどりますように(コータバーの様子)

取材・写真 本間寿子


Information

ゲストハウスちゃぶだい(ちゃぶだい Guesthouse,Cafe&Bar)

【住所】川越市三久保町1-14

【電話】049-214-1617

【HP】https://www.chabudai-kawagoe.com/

【FB】https://www.facebook.com/chabudaikawagoe/

【IN】https://www.instagram.com/chabudai_guesthouse/

※宿泊・ランチ&カフェ営業については、今後営業日や時間帯が変更される可能性があります。また、カフェではテイクアウトのお弁当も販売している日もあります。ちゃぶだいさんのSNSをチェックしてみてください。

ちゃぶだい