川越一番街商店街シリーズ~初山 香代子さん〜「Mie Coco(ミーココ)」店主~
ウィーン国立音楽大学を卒業し、ピアニスト、ピアノ講師、学校の先生と活躍してきた初山 香代子さん。
蔵の街一番街のメイン通りからちょっと横道に入った場所に、ウィーンと猫がテーマのオーストリア料理のお店「Mie Coco(ミーココ)」をオープンしたのは今からちょうど5年前の9月14日です。
(以前取材した記事はこちらからどうぞ。)
お酒が大好き、人と会話がするのが大好き、という華やかで社交的なかよさんですが、飲食店をやりたいとは全く思っていなかったそうです。一体どんなきっかけでお店をオープンすることになったのでしょう?
そして、“飲食店は3年で半分以上が閉店する”とも言われているシビアな世界。そんな中で、ここまで続けてこられた秘訣はなんなのでしょうか?お話をお聞きしました。
お店を開くきっかけは?
かよさんは、ピアニストや講師として活動していましたが、出産、子育てをしているうちに興味関心は教育現場へと向くようになりました。
最初は不登校支援の相談員として、数学や英語をおしえたり、家庭訪問をしたり、ピアノとはまったく関係のない仕事にも携わっていました。
声楽も得意だったというかよさんは、時には合唱をおしえたり、伴奏を指導したりということもしていました。
「でも、当時働いていた学校の細かくきっちりいう仕事とどことなく窮屈な雰囲気が、私の性格にまったく合わなかったんです。それに、母親の具合もあまりよくなくて、学校の仕事はもう辞めようと思いました。それから、定年退職のない職業は何だろう・・・と考えて、飲食(店)だ!という感じに決まったんです」
組織で仕事をしていればいつかは迎える定年退職。その後の人生をどのように生きるか?というのは、働く人すべてが向き合うテーマですね。
たまたま、かよさんがよく通っていたブリティッシュパブが閉店後しばらく空き店舗になっていました。そこなら自分の家にあるお気に入りのものを並べてお店ができる、とすぐにイメージがわいたそうです。さっそく行動に移し、やると決めてから3か月で今のMie Cocoの場所を手に入れました。
今まで経験のない飲食店を開業すると決めたものの、ご家族や周囲の人たちの反応はどうだったのでしょう?
旦那さんには、お店をやることを突然告げたのですが、それほど驚かれずあっさり受け止められたそう。
「まったく反対もなく、え、やるの、ふーんっていう感じでした(笑)うちの夫婦はあまりお互い干渉しあわず、お互い自由なんです。そういう点ではありがたかったです」
飲みにいった先で知り合った人たちに相談してみると、最初は反対の嵐でした。教員時代のように稼げる保証はない、料理はいつも同じ味にしなければならない、仕込みも大変だよ・・・。
しかしかよさんの決意が固いとわかると皆、親身に相談にのってくれたり、応援してくれるようになりました。
「色々言われましたが・・・ちょっと挑戦したかったんですよね!」
オープン、そして、さらなるウィーンの味の追求
オープンして一年目は、赤字にはならなかったものの、一人で店を切り盛りするのはかなりきつかったと振り返ります。
最初は、お得意のカレーやホットドックやピザトーストを出していたのですが、もっと「ウィーン色」を打ち出そうと思い、メニューを見直することに。
当初からあったマッシュルームフライの他にシュニッツエル(ウィーン風カツレツ)、ツヴィーベルローストブラーテン(ウィーン風ステーキ)といった本格的ウィーン料理が登場します。
他にもドイツの伝統料理「アイスバイン(塩豚)」をウィーン風にアレンジ。アンチョビコロッケや、焼いたソーセージにオリジナルのカレーソースをかけたカリーヴルストといったものもメニューに加わりました。
「あと、ウィーン料理ならご飯よりも、パン。それもセンメルというパンがなければ、ダメだなと思いました。ウィーンにいた友達が帰国する時に、お願いして本場のセンメルを持って帰ってきてもらいました。そして、そのパンをもってブーランジェリーリュネットさんに行ってレシピもないのに『これと同じもの作ってください!』ってお願いしたんです」
何度かの試作ののち、できたウィーンのパン、センメル。 知り合いのオーストリア人に「ここのはパーフェクト!」と言わしめるほどの出来に仕上がりました。それもお店の売りになっています。
ウィーン料理とうたっているからには、これは絶対はずせないというものには徹底的に向き合い追求し続ける――ふと、かよさんのピアニストとしての姿も重なりました。
昼間は本格的ウィーン料理を求めて定期的にいらっしゃるお客さんの他、観光客の方が多いとのこと。
「夜は週に3日間しかやらないのですが、常連の方に多く来ていただいています。夜だけは飲むお客さんが多いので、居酒屋風メニューも作っています。加えて昼間にはなかなかお出しできない手の込んだウィーン風ロールキャベツ、煮込み料理のグーラシュ、ターフェルシュピッツも時々出しています」
お店に集うみなさんの共通点?!
お料理のおいしさやニーズにあったお料理は当然のこと、お店を支えていく上では、常連さんの存在もかかせません。
Mie Cocoさんに集う方々には、ある共通点があります。かよさんとだいたい同世代であるといったこともそうなのですが・・・
「人と話したりするのも好きなんですが、本も大好きでたくさん読みます。音楽はもちろん映画や芸術も大好き。演劇も好きです。実は以前小劇場の舞台に立っていたこともあるんですよ。色んなことに興味があるし、経験もあるので、そういう話題を楽しんでくださる方が多い印象です。一人でふらっと入ってきて、飲んで会話して、さっと帰っていく、また、さりげなく助けてくれたり・・・本当に感謝しかないですね」
中には、シュニッツエルを作る際にどんなお肉があうか相談にのってくれたお肉屋さんや、お団子屋さんもいるのですが、すべてお店をやるようになってから知り合った人たちです。
あるとき、かよさんの何気ない発言から、常連さんたちが集まって「大人の遠足」なるものが始まったのは今から2年前。ただ飲みに行くのではなく、美術館や博物館に行って芸術文化にふれる、といった体験を必ず入れて、そのあとみんなで食事やお酒を楽しむというスタイル。いつもかよさんが仕切っているそうで、コミュニティづくりの達人といった感じです。
また、Mie Cocoさんではプロの音楽家を招いたクラッシックなどの音楽イベントも開催しています。それ以外にも常連さん発案のディスコイベントも年に2回開催しています。
「でもね、常連さんたちで固めてしまって入りにくいお店になるのは避けたいんです。誰でもがぶらっと入ってこられるお店でありたい。初めてのお客さんが来て、もしお店の中がいつも来るお客さんでちょっとにぎやかだったら、静かにしてもらうようやんわりとお願いしたり、目くばせしています(笑)」
そしてこれから・・・
姉御肌で、その上、音楽家らしく調和がとれた雰囲気を大事にしているかよさん。
芸術文化の会話を楽しみたい人たち、また集まった同士も楽しんでいて、その場所を大事にしようとしている人たちもいる。そんなみなさんに支えられているMie Cocoさん。
お店の周囲は以前、着物屋さん、ベトナム雑貨のお店と飲み屋さんだけでしたが、ここ数年はピザ屋さん、スタイリッシュな観葉植物専門店、多国籍料理のお店と次々にオープン。お店の前の小さな通りは今や国際通りとも言われ、行きかう人でにぎやかになってきました。
でも、正直なところ辞めたいと思ったことはないのでしょうか?
そんな質問に即座に「ないですね!」と笑顔で答えてくれました。
「こないだ、次男の誕生日に2人で食事に行ったときにこう言われたんです。『お母さんは教員時代は怖かった』と。自分としてはそんなに厳しく叱った覚えもなかったんですけどね。でも『Mie Cocoをやるようになって気さくな人になった。やってよかったんじゃない?』と言われたんです」
なんだかとても嬉しそうに話すかよさん。これからも、料理の工夫は続けつつ、今のまま元気で健康で続けていければいいなと語ります。
ご家族の理解、素敵な常連さんたち、人の流れの変化、こういったことが5年の歳月を支えてきたのかもしれません。
ひとつひとつレッスンを積むように、調整したり、修正したりの繰り返しを当たり前のようにやってきた、かよさんならではの美学があるのも間違いないと思いました。
なお、Mie Cocoさんでは5周年を記念し、先着順でちょっとしたプレゼントも用意があるようです♪
かよさん、お忙しいなかお時間いただきありがとうございました!5年後のインタビューもお願いします!
取材・写真 本間寿子
INFORMATION
Mie Coco(ミー・ココ)
【電話】049-222-2733
【住所】川越市幸町3-7
【営業】(火・金・土)12:00~22:00 (月・水)12:00~17:00 (日) 12:00~20:00
【定休】第2・第4水曜日 木曜日
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