置き忘れた人形ってみすゞのことではないでしょうか〜みすゞ塾第14回「おさらい会」〜

取材・記事 白井紀行

 

大正時代から昭和初期に活躍し、26歳の若さで自ら命を絶った童謡詩人金子みすゞ。

亡くなる前の年に3冊の手帳に書き残した512編の詩。

これを第2、第4月曜日に蓮馨寺講堂で読み進めているのが「みすゞ塾」。

時代背景や生涯を勉強しながら詩の奥にあるみすゞの心を一緒に探す。

塾長は金子みすゞをライフワークとして取り組む女優・谷英美(えみ)さんです。

 

毎年、年末に「おさらい会」と題して行う発表会、2019年は12月21日(土)に開催。

クラッセ川越で開催された第14回の模様をレポートします。

 

しばしの間、金子みすゞの世界にお付き合い下さい。

 

第一部 塾生による朗読発表

ステージにずらりと並ぶ8名の塾生ら。初めたばかりから14年までさまざま。

谷さんが挨拶し、それぞれが選んだ詩を読み上げます。

 

①生島秀子さん

「漁師の小父さん」「電報くばり」「打出の小槌」「空の鯉」

子どもの気持ちで情景を紡ぎ出した童謡詩人らしい詩が並びます。

 

②幕内史子さん

「夕ぐれ」「燕の手帳」「ひよどりごえ」「老楓(ろうふう)」

終わりの寂しさも感じさせつつ、どこか、ほっとした温かさを感じる詩。

夕焼け小焼け♪で始まる「夕ぐれ」は、子どもの頃の原風景を思い起こさせます。

 

③磯部幸江さん

「山茶花(さざんか)」「お坊さま」「お日さん、雨さん」「忘れもの」

「忘れもの」は、この後の谷さんのコーナーで新しい発見として取り上げられました。

 

③中西勇助さん

「木」「木」「土と草」の3編(「木」はそれぞれ異なる詩)

誰も気に留めない光景にそっと目を向けるそんなみすゞの優しさを感じます。

 

④萬年山えつ子さん

「空のあちら」「ぬかるみ」「にはとり」「北風の唄」

風景を表現しながらも、みすゞのもがくような苦しみを感じさせる凄みのある詩。

 

⑤網代三千子さん

「四つ辻」「かるた」「店の出来事」「去年」

はらりはらり、キラ、キラ、キラリよなどオノマトペが多くリズムの良い詩。

みすゞの平穏な日々を感じさせます。

 

⑥佐藤満也さん

「文字燒き」「あらしの夜」「やまとそら」「汽車の窓から」

モノローグのように光景を淡々と映し出す静かな詩。

 

⑦豊岡清子さん

「キネマの街」「目のないお馬(んま)」「積った雪」「麦の芽」

目の前の光景を擬人化したような詩。どこかにそれを見守る別の存在も感じさせます。

「麦の芽」は、出身である会津若松のズーズ弁の訛りで読み上げました。

 

⑧阿仁屋洋子さん

「大漁」「青い空」「このみち」「鈴と私と小鳥と」

「このみち」は、このみちのさきには・・この道を行こうよが4回繰り返される詩。

自分の解釈で、いろんな読み方ができる詩と感じました。

 

第二部 子ども達による朗読

一昨年、3月10日金子みすゞの命日に下関市で行われたトリビュート公演。

そこで、子どもたちがみすゞの詩の朗読に参加しました。

子どもの声は良いなと感動し、今回、川越でも新しい試みとして取り入れました。

 

4人の子ども達が選んだ作品は次の5つ。

「露」「きりぎりすの山登り」「鈴と私と小鳥と」「闇夜の星」「しあわせ」。

朗読の後、谷さんは子ども達に詩を選んだ理由や感想をインタビュー。

「しあわせ」の詩では、幸せの色って何色だと思う?と問いかけました。

子供達からは返って来たのは「赤」「色んな色」「明るめの赤」「赤」という答え。

谷さんは詩の冒頭『桃いろお衣のしあわせ』からピンクと考えていたそう。

同じ詩を読んでも頭に浮かぶイメージはそれぞれ違うんだなと感じさせられます。

子どもの朗読は変に感情を込めたりしないけど何か伝わってくる。

そんな感想を述べ、このコーナーが締めくくられました。

 

第3部 谷英美さんによる詩の解説と朗読

ここからは塾長である谷さんのコーナー。

仲間の朗読を聞くと、一人、詩集に向かうだけは気づかない新たな発見がある。

今回、取り上げたのは「忘れもの」という詩。まずは、全員で読み上げます。

 

田舎の駅の待合室(まちあい)に

しずかに夜は更けました。

 

いつのお汽車を待つのやら。

ふるい人形(にんぎょ)は

ただひとり(一人)。

 

しまい(終い)の汽車におどろいた

虫もひそひそ鳴くころに

 

箒をもったおじいさん

じっとみつめておりました。

 

ふるい人形のかあさん(母さん)は

いく山さきを行くのやら。

とおく、こだまがひびき(響き)ます。

 

田舎の駅は夜ふけて

しずかに虫が、ないてます。

 

少女が駅に人形を忘れていったという、谷さんも20年間特に気にも留めなかった詩。

これをみすゞの生涯と重ね合わせると、詩の創作のルーツになるのではないか?

詩の朗読を随所に挟みながらみすゞへの旅が始まりました。

 

誰がほんとを

みすゞのお父さんは本屋をしていて、中国(当時の清)に一号店を出すため単身赴任。

日清戦争が始まろうとしていた時代、お父さんは馬賊に殺されたとされています。

みすゞが3歳の時でした。

長門市仙崎の習わしで、不慮の死を遂げたものは、祟りを恐れ無縁墓に葬られます。

ところが、15年前にお父さんは脳卒中で亡くなったことがわかりました。

しかも、お母さんはそれを知りながら先祖代々の墓でなくわざわざ無縁墓に。

両親の間に何があったのか?よほどの行き違いがあったはず。

その事情は話されなかったものの、みすゞは子ども心に何かおかしいと感じていた。

その思いが「誰がほんとを」という詩に残されました。

 

睫毛(まつげ)の虹

稼ぎ頭のお父さんが亡くなってしまうと生活が大変になる。

ご飯を食べさせる子どもを一人でも減らためみすゞの弟は、親戚へもらわれました。

みすゞの母の妹フジの嫁ぎ先で下関の街で一番大きな本屋である松蔵のところへ。

しかし、みすゞが16歳のときにフジは病気で亡くなる。

すると、お母さんが松蔵と再婚して金子の家を出ていってしまいます。

 

こころ

二十歳のときに金子みすゞはお母さんと弟がいる松蔵の家に移り住みます。

でも、それは本屋のお嬢様という身分ではなく女中としての暮らし。

お母さんのことを「奥様」、弟のことは「坊ちゃん」と呼ばなければならない。

一緒に暮らしていても心を通い合わせられないなら別々に暮らしている方がまし。

そんな、口に出せない寂しさがみすゞを詩人にしたのかもしれません。

 

「おひる休み」「駆けっこ」「羽布団」「ゆめ売り」「こころ」を朗読。

「こころ」は、仲のよいお母さんと娘なら微笑ましく感じる詩です。

これを生い立ちと重ね合わせると強がっているみすゞの切なさが伝わってくる。

 

忘れもの

ここで、「忘れもの」の詩に立ち返ります。

駅のベンチに置き忘れられた人形というのはみすゞのことではないでしょうか?

古い人形のかあさんはみすゞのお母さんのことではないでしょうか?

この人形のかあさんは人形を取りに果たして戻ってくることはあるんだろうか?

そんな風に考えた時、タイトル「忘れもの」が胸に突き刺さってくる気がします。

「忘れた唄」は、金子みすゞって小さい時にお母さんを亡くしたかと思わせる。

三歳の時に亡くなったお父さんがあちら側から迎えにくる「赤いお船」

 

こだまでしょうか

複雑な生い立ちやねじれてしまった親子関係。

お母さんへの屈託や屈折そういった吐き出さずにはいられない思い。

それが、みすゞに詩を書かせたのかもしれません。

辛いことがたくさんあったから、優しい詩が描(か)けたのかもしれません。

「やぶかのうた」「雲の色」「忙しい空」「こだまでしょうか」

最後に4編の詩を朗読して、谷さんコーナーを締めくくりました。

 

「空のかあさま」上演のお知らせ

金子みすゞの生涯を詩の朗読で辿る「金子みすゞひとり芝居『空のかあさま』」

1999年に初演をして以来、20年間演じ続けている谷さんのライフワーク的作品。

それが、2020年3月21日(土)に川越西文化会館(メルト)で上演されます。

 

今回の公演では第一部で華道ライブが行われます。

塾生の一人、網代さんは川越古流協会副会長で丸広百貨店でも展示会を行なっています。

活ける過程を観客にも見てもらい、活けた花をそのまま舞台装置として使う。

「華道も廃って行く時代、興味を持っていただければ」と意気込みを伝えました。

 

私と小鳥と鈴と

みすゞ塾のモットーは「みんな違ってみんないい」

最後は、全員で「私と小鳥と鈴と」を読み上げてお開きです。

 

私が両手をひろげても 

お空はちっとも飛べないが

とべる小鳥は私のように

地面(じべた)をはやくは走れない。

 

私がからだをゆすっても

きれいな音はでないけど

あの鳴るすずは私のように

たくさんなうたは知らないよ。

 

すずと、小鳥と、それからわたし、

みんなちがって、みんないい。

 

動画にまとめました

朗読を写真と文字だけで伝えきれないので、動画にまとめて見ました。

お時間がありましたら、この記事と合わせてご覧ください。


Information

みすゞ塾 第14回 おさらい会

【開催】令和元(2019)年12月21日(日)15:00〜16:20

【場所】クラッセ川越6F多目的ホール(川越市菅原町23-10)

【主催】みすゞ塾

【問合】090-6147-4160(佐藤)

【HP】http://www2.u-netsurf.ne.jp/~apro/

【Blog】http://www2.u-netsurf.ne.jp/~apro/bin/emi_blog/diary.cgi

【FB】https://www.facebook.com/emi.tani.10

 

みすゞ塾の中でお知らせした、公演のお知らせです。

https://events.koedo.info/event/200321soranokaasama/

 

また、公演の成功のためにReadyforでクラウドファンディングにも挑戦中。

ぜひ、こちらにもご協力ください。

https://readyfor.jp/projects/soranokaasama