あぁ、ずっとこの音楽の世界に浸っていたい〜山田隆広ピアノリサイタル〜

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取材・記事 白井紀行

 

川越出身で在住のピアニスト・キーボーディスト・作曲家「山田隆広」氏。

クラシック、ポピュラー、ロック、ジャズと幅広いジャンルに長けた演奏家。

そして、子供から大人、プロの演奏家を指導する先生の顔も持ちます。

また、当法人が運営のインターネット放送「ラジオぽてと」ではMCも担当。

冠番組「山田隆広の超絶ピアノワールド」では、超絶技巧を持つピアニストを紹介。

そういった縁で、3月24日のピアノリサイタルに招待されたので行ってきました。

 

会場はウェスタ川越の小ホール。

用意した250席はリサイタルの1週間前でほぼ売り切れの満席です。

ここから当日の模様をお伝えていきますが、エクスキューズ(^^;)。

記者は楽器は弾けず、音楽に詳しいわけではありません。

写真と文字のみで当日の素晴らしさや感動を描写することは到底出来ません。

記事はあくまでもその片鱗にしか過ぎないと思ってご覧ください。

 

バッハ/フランス組曲よりサラバンド

始まりの合図とともに静まり返る会場。上手より山田隆広氏が登場。

チェンバロの蓋をおもむろに開け、演奏するのは春のまどろみを感じさせる優しい曲。

「バッハ/フランス組曲よりサラバンド」です。

ピアノで弾くとゆったりとした優雅な曲。

これがチェンバロだと一音一音が際立つせいか緊張感が加わります。

 

今回のリサイタルの目玉がチェンバロ、このために当初のプログラムを変更。

日本を代表するチェンバロ工房の久保田彰氏が制作で、本日が初のお披露目

自分で弾いていて鳥肌が立ったというほどの出来栄えだったとか。

 

ペツォルト/メヌエットをピアノとチェンバロで弾き比べ

チェンバロはピアノの先輩格に当たる楽器ですが、音の出し方が異なります。

ピアノはハンマーで弦を叩く打弦楽器でチェンバロは弦を爪で弾く撥弦楽器。

その違いを実感してもらうため同じ曲の弾き比べ。

 

まずはピアノから。初級から中級者の発表会でもよく使われる曲。

誰でも一度は聞いたことのあるお馴染みの旋律が流れます。

 

この曲はチェンバロの時代に作曲されたので本来の音色はこちらなのだそう。

ピアノは強弱を付けられますが、チェンバロでは演奏のバリエーションで表現。

 

普段ピアノで弾いている曲をチェンバロで弾く。

シンデレラの時代を思わせる宮廷舞踏の香りがするのでは、解説を加えます。

 

山田隆広/プレリュードとフーガ・ニ短調

最後は、チェンバロでどうしても弾きたかったと言うオリジナル曲。

フーガというのはバロック時代に完成された作曲のテクニック。

1つのメインとなるテーマメロディを何度も繰り返すもの(遁走曲とも言われます)。

カエルの合唱(♪カエルの歌が聞こえてくるよ)のように重ねて行く曲です。

 

重厚さと広がりのある前奏の後、フーガに入ります。

川が見せるサラサラとした流れ、瀞のようなゆったりさ、激しさといった表情。

クルーズ船に乗り川を下っていっているかのような光景が頭に浮かびます。

 

名残惜しいですがチェンバロはここで撤収。続いてはピアノ演奏に移ります。

 

モーツァルト/幻想曲ハ短調

モーツァルトを弾く前に時代背景と曲の解説がありました。

当時の音楽家は貴族からの依頼でコンサートや食事や式典のときに弾く雇われ人。

なので、基本的には優雅で美しいものを作曲して演奏するのが宿命。

モーツァルトは天才なので明るい曲にすごい和音や熟練の技を隠していました。

けれど、どうしても抑えられずに喜怒哀楽を全て出したのがこの曲。

 

重苦しい不協和音で始まり、明るく楽しくなったり迷いを感じさせる旋律。

リズムも軽快になったり立ち止まったりと情熱的になったりと。

この曲にはどんな物語が秘められているのか知りたくなります。

右手と左手が紡ぎ出す音でピアノと会話をしているかのような演奏。

 

かなり幻想曲色強く、これがモーツァルト?って感じたかもしれません。

これが「山田隆広ワールド」です。

当時の演奏スタイルでなく現代のピアノでモーツァルトの意思を最大で表した。

ピアノリサイタル後のFacebookにはそんな言葉が添えられていました。

 

スクリャービン/左手のためのノクターン

クラシックには戦争で右手を失ったピアニストのために書かれた曲が多く存在。

スクリャービン自身も練習のし過ぎで右手を故障してしまった。

彼の曲にはテクニック的な難しさもある。

今から弾く曲はすごく美しい曲でだいぶ前衛的で衝撃的な曲です。

 

最初の30秒くらいは目を瞑って聞いて見てください。

ピアノは右手でメロディ、左手で和音を奏でるのですが、普通に聞けるはず。

両手で弾けば簡単に弾けるものを左手一本で弾く美学を楽しんで欲しい。

そんな風に初めて聞く人に曲の楽しみ方を分かりやすく教えてくれる。

山田隆広氏のリサイタルの魅力の一つです。

和音の響き残っている間に旋律を重ねていくテクニック。

目を開けていても左手だけで弾いているとは思えません。

 

リスト/ダンテを読んで

前半最後の曲は20分におよぶ大作「リスト/ダンテを読んで」

神曲は1,300年代の大衆にも分かりやすく書かれた大衆小説(いわばラノベ)。

地獄、煉獄、天国という旅の中でダンテが学んでいったりする物語。

途中にボスなんかも出てきてドラクエにも似ているのだそう。

 

ダダーンと三全音と不安を感じる音で曲は始まります。

曲で苦悩、喜び、救いを表現するのは先ほどの幻想曲ハ短調に通じるもの。

モーツァルトの時代のピアノは木のフレームで思い切り叩くと折れてしまう。

リストの時代は鉄のフレームで鍵盤の数や音量も全然違う。

感じていた苦悩や喜びは同じでもピアノの差による味わいの違いを楽しんで欲しい。

それがこの曲を選んだ理由の一つなのだそうです。

 

地獄や恋人との愛の歌、地獄から救われたと思ったらまたどん底へ。

最後には天国、神々しく崇高な世界へとたどり着くまでの情景をピアノで表現。

観客からは色んなものが見え、20分が短く感じたとの感想を頂いたそうです。

 

山田氏も「曲のインスピレーションで自分から湧き出る世界に引っ張られた。

思わず弾くのを忘れそうになった」と後に語る程、会場を巻き込む演奏でした。

 

山田隆広/荒城の月の主題によるフルートとピアノのための変奏曲

後半は荒城の月をモチーフにした変奏曲。

演奏を7巡させる中で荒城の月のメロディーやコード進行を変えていくというもの。

 

フルートを演奏する小澤恭子に来てもらって14時間かけて作ったのだそう。

フルートはドレドレの音が一オクターブ上になると指遣いできない難しさがある。

だから、曲を書いて吹いてもらって確認することを繰り返して完成した。

そんな誕生秘話も明かされます。

 

1巡目はオリジナルより低くて暗い感じで始まる「荒城の月」。

 

フルートのもの哀しげな音が主旋律として重なります。

2巡目、3巡目はクラシック寄り、4巡目で「荒城の月」に戻る。

 

5巡、6巡は最初の暗さと対象的な軽快さ。そして、7巡目で「荒城の月」。

ピアノとフルートの魅力を引き出し、滝廉太郎の人生を重ね合わせた曲でした。

 

山田隆広編曲/リストピアノ協奏曲1番 ピアノ6重奏版

ずっとこの山田隆広氏の音楽の世界に浸っていたい。

そんな思いを汲んでか、リストの華々しい凄さがずっと出ている曲でフィナーレ。

平成が終わり新たな時代へと変わろうとしている今。

4月からは新しい環境へと変わる門出の時期でもある。

新しいフィールドで頑張って欲しいと餞(はなむけ)の演奏です。

 

100人のオーケストラによる協奏曲を6人に編曲。

この一音が足りないんだけどどうしよう。誰かトライアングルを叩いてくれないかな。

そんな苦労談を話していましたが、演奏ではそれを微塵も感じません。

 

前半の「プレリュードとフーガ・ニ短調」を川と表現しましたがこちらは海。

大海原を進む豪華客船に乗っているかのよう。

 

大きな波、静かな波、進むにつれ様々な表情を見せる海。

船で交わされる会話、食事、パーティ、ダンスを楽しむ光景が浮かびます。

 

まさに、4月を迎えての新しい船出を感じさせます。

今脳がリラックスしているということを実感できる素晴らしい演奏でした。

 

ピアノ即興(激ラプソディー風)

船を降りてもまだ波の上にいるかのよう。そんな、浮遊感に包まれた会場。

アンコールで弾くのは「ピアノ即興(激ラプソディー)」

今日のリサイタルを振り返りとお礼の言葉のように聞こえます。

 

終わりにチェンバロを作成した久保田氏が来場。

チェンバロを再び壇上に引っ張り出して紹介します。

この塗りムラがまるで石のように見えるのがお気に入りポイントとか。

お披露目も終わったので、今後自宅サロンで見ることができるそうです。

 

チェンバロ即興(アリア系)

チェンバロによるこれが本当に最後の演奏。

即興で弾いたアリア系の曲。

初めに弾いた時よりも優しさと繊細さがより際立ったように感じました。

クラシックはCMやBGMでもよく使われ学校でも習うので耳馴染みの曲。

しかし、コンサートに足を運ぶかというとなかなかに敷居が高い。

難しそう、退屈そう、眠くなりそう。そんな思いが先立ちます。

山田隆広氏のリサイタルはそんな懸念を払拭してくれること請け合いです。

曲が生まれた背景や聴き所を分かり易く解説されるのできっと誰でも楽しめます。

是非、次の機会がありましたらご覧ください。

 

お知らせ

文字と写真だけではわからない。次のコンサートまで待てない、一度聞いてみたい。

そんな皆様に朗報です!なんと、GW中の5月4日にコンサートが行われます。

場所は、川越プリンスホテル1階、開演は14時から。

ピアノに加えキーボードを4〜5台持ち込んでの演奏になります。

しかも観覧無料! 是非、山田隆広氏の演奏をご堪能ください。


INFORMATION

【開催】平成31年3月24日15:00〜18:00

【場所】ウェスタ川越小ホール(川越市新宿町1-17-17)

【HP】http://yamadatakahiro-piano.co.jp/

【FB】https://www.facebook.com/takapubin