300年伝承されて来た悪魔払いの神事〜芳地戸(ほうじど)のふせぎ〜

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取材・記事 白井紀行

 

川越市笠幡にある「さざんか通り」という愛称を持った市道。

県道川越日高線と平行し、沿道には1,000本以上のサザンカが咲きます。

 

そのとっかかりにあるのが「尾崎(おざき)」神社。

 

創建は不明ですが、日本武尊御東征の折に「尾崎の宮」と称しお祀りしたそう。

716年に高麗郡が設置され、川越・江戸へと大陸文化の通り道となった高麗街道。

その街道沿いにあったと記録されており、1,300年以上の歴史があると考えられます。

 

尾崎神社を取り囲むのは鬱蒼とした鎮守の森。

 

尾崎神社では、毎年、彼岸の中日(春分の日)に「芳地戸(ほうじど)のふせぎ」と呼ばれる伝統行事が行われます。これは、今から約300年前の享保6(1721)年に疫病が蔓延したときに芳地戸地区に入るのをふせぐ行事として始まり伝承されてきたものです。

 

神輿(みこし)製作その他準備

ふせぎの行事は、9時からみこしの製作、13時に道饗祭祭事(みちあえのまつり/ふせぎの祈祷)、その後、地区内を辻札みこしを訪問しお祓い。神社に戻ったら慰労反省会の後、役員が字界の9箇所に辻札を立てます。

この日は、朝から雨なので、みこしを担いで神社の境内をぐるりと回ってお終いです。

まずは、辻札と神輿づくりの様子です。

 

辻札づくり

1年間風雨にさらされながら村を見守り、御札がすっかり朽ちてしまった辻札。

 

辻札は篠竹に御札を挟んだもの、紙垂と輪飾りを挟んだ2種類あり陰陽を表します。

いずれも先端に藁で作ったボンテンを付けます。

 

陰陽の2種を9箇所に立てるので用意する篠竹は18本。

昨年の辻札の長さに揃え、節を鉈で削ります。

 

先端は藁で編んだボンテンを差し込むため斜めに切る。

 

御札とボンテンの長さ分まで篠竹を割ります。

 

そこに御札を差し込み麻ひもで縛る。

 

神楽殿では先端につけるボンテンが並行して作られています。

 

藁を束ねて藁縄で結んで折り返す。

 

以前、撮った動画を参考にしながら組み立て。根元を藁縄で結ぶ。

 

これを20cmほどの長さに切りそろえます。

 

これを辻札の先端に取り付けて完成です。

 

こちらは紙垂と輪飾りを挟んだもの。

(横に通した稲穂は左向きが正しいそうで、あとで修正していました)。

 

こちらもボンテンを差し込んで完成です。

 

合計18本の札辻ができました。

 

神輿づくり

神輿は、藁の台座に四角の木製の枠を載せ、榊や樫の小枝などを取付けた古風なもの。

毎年、製作するので、昨年のものを見て構造を確認中。

 

藁で編んだ台座。クロスさせた篠竹の上に御神体を収めた四角の木枠を固定します。

やや長方形をしていて座布団より少し大きめ。

 

篠竹を必要な長さに切断。

 

鉈で縦に割いていき、ささくれなどを処理しておきます。

 

年長の方に聞いたりして和やかな雰囲気で作業が続けられます。

かつては、縄綯(な)いは日常的な作業でしたが、今は、年1回くらい。

「年に数回やって技術の継承ができればいいんだけど」と話していました。

 

こちらは台座の周りをぐるりと囲む太い縄を製作中。

 

藁を継ぎ足しながら縄紐で巻いていく。

 

頭には尻尾と連結するため竹を加工したものが差し込まれます。

 

続いて藁を敷き詰めて台座を作ります。

 

端っこを撚り合わせて縄状にしていく。藁を捻ったりして意外と難しそう。

 

一つの辺を編み終わったところで藁を直角方向に敷き詰めます。

 

次の辺に取り掛かります。

 

苦心しているのは藁の長さが短いせいもある。

コンバインで稲を刈ると、どうしても十分な長さが得られないのだそう。

また、稲作をする農家も5軒しかなく、藁自体も入手も課題となっています。

 

「最後は一番綺麗にできたな」と笑いながら四辺を編み込み終わりました。

 

台座の対角線上に竹を渡す。裏表から挟み込むように藁縄で結びます。

 

朝から降り始めた雨は、霙(みぞれ)まじりになってきました。

 

太い藁縄を四辺の縁に沿わせ、細い荒縄で縛っていきます。

 

ぐるりと一周したところで藁縄を切断。

 

頭と尻尾を竹のジョイントで接続

 

藁縄で台座と固定します。

「ちょっと台形になったか」「末広がりでいいんじゃないか」と会話が飛び交います。

 

四角い台を台座の上に乗せ、下の角の出っ張りと対角線に渡した竹と結びます。

 

篠竹のかつぎ棒も台座に取り付けます。

 

四角い台の上の縁に開いた15個の穴に榊をさしていきます。

 

角の部分には大きく切った樫の木を取り付けていく。

 

注連縄をぐるりと回すとお神輿らしくなってきました。

 

注連縄に紙垂を取り付けてお神輿の完成です。

 

激しくなってきた雪降る中、できたばかりのお神輿を拝殿に運び込みます。

 

ふせぎの祈祷

13時に地域の子ども達がやってきて半纏に着替えて拝殿へ。

道饗祭祭事(みちあえのまつり)とよばれる「ふせぎの祈祷」が始まりました。

 

拝殿からお神輿が担ぎ出されました。

幟には「道饗祭除災招福尾崎大明神御神幸」と書かれています。

大人たちが来ている半纏には、大きく時の鐘が染め抜かれていてカッコいい!

 

辻札を持った子どもたちが幟の後について境内を回ります。

 

その後を、お神輿、宮司さんがしずしずと続きます。

 

昭和30年ごろまでは、このように村内を巡るお祭りが全国に数多くあったのだそう。

記者も以前「上寺山のまんぐり」と「鯨井八坂神社の天王様」を取材しました。

川越には未だ未だ地域に根付いた伝統が残されています。

 

昭和42-3年までは家の中に入って清めていたそうですが、昨今は庭まで。

 

境内を一回りして、今年の行事はおしまい。

この後は拝殿の隣にある参集殿で地域の交流会が開かれました。

(記者もご相伴にあずからせていただきありがとうございました)

 

天気が良ければ、地図に示されたルートで村中を4時間ほど掛けてめぐります。

辻札は尾崎神社と丸数字で示されている村境(字界)に立てられます。

一番下の大きな赤丸が尾崎神社の境内。相当な距離があるのがわかります。

来年は、是非、その様子もお伝えしたいですね。

 

「ドコデン・カッカ」と太鼓の音が、雪降る境内に静かに響く。

 

その傍らでは、村を見守る9組の辻札が出番を待っていました。


INFORMATION

芳地戸(ほうじど)のふせぎ

【開催】平成30年3月21日9:00-13:30

【住所】尾崎神社(川越市笠幡1280

【電話】049-233-2803

【HP】osaki.pw/

【参考】市指定文化財 芳地戸のふせぎ(川越市HPより)

川越市笠幡1280