空き家に新たな価値を~荒木 牧人さん(家守会社 株式会社80%代表取締役)

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連雀町の一角、昭和のたたずまいのままシャッターが閉められていた長屋。どこか懐かしい趣のある建物は、今、人が集う店舗として、生まれ変わろうとしています。今回はそのリノベーションプロジェクトの仕掛け人である、株式会社80%代表取締役の荒木 牧人さんにお話しを伺いました。

株式会社80%

©カワゴエ・マス・メディア

自身の建築設計事務所を設立し、建築士として活躍している荒木さんですが、そもそもリノベーションに強く関心を持つきっかけとなったことはなんだったのでしょう?

 

「自治会長になったことなんです。
順番で回ってくる班長になったのですが、なかなか役が決まらなかったのが『自治会長』でした。そのとき、自治会長を引き受けてくれないか?と頼まれたんです。最初は頑なにおことわりしていましたが、みんなでフォローしていくので、ということで一年という任期を引き受けることにしました。ただ、やるからにはやりたいようにやらせてほしいとお願いしました。

でも、これが、本当に、なかなか好きなようにやらせてもらえなかった!(笑)今までこうしていたから、そのとおりにやってくださいと言われたり・・・話違うじゃん!と心の中で叫びました。任せてもらえることもありましたが、だんだん個人プレイみたいになってきて、かなりフラストレーションがたまっていました。」

 

そんな状態がピークに達しようかという10月にたまたま建築のあるアイディアコンペが、荒木さんの目に留まります。それがリノベーションのアイディアコンペ*『空き家問題を解決せよ!』というテーマでした。

*リノベーションEXPO JAPAN 2013 第3回リノベーション・アイデアコンペティション
株式会社80パーセント

©カワゴエ・マス・メディア

「自分がいる自治会にも空き家がだんだん増えている。このフラストレーションと組み合わせたらなんとか解決できるんじゃないの?と思いました。」

 

締め切りの前日にそのアイディアに気が付き、一気に書き上げ提出。審査を無事通過して本選まで進むことに。そしてなんと、そのコンペティションで2位(優秀作品賞)に。

▼これがその時に荒木さんがプレゼンした「空き家×自治会」資料の一部

リノベーションEXPO JAPAN 2013 第3回リノベーション・アイデアコンペティションサイトより

「そこで審査員長していた方(竹内昌義氏*)に『荒木くん、これ面白いから今後ともよろしく!』と声をかけていただき、情報交換をするようになりました。時を同じくして「ほしい暮らしは自分でつくる、ぼくらのリノベーションまちづくり(嶋田洋平 著)」という本を手にしました。

これがリノベーションとの出会いです。それから、公民連携で地域活性化を進めていて、全国から注目を集める町(ご参考:岩手県紫波町「オガールプロジェクト」 補助金に頼らない新しい公民連携の未来予想図の事例を見に来ないか?と誘われて行ったり、リノベーションスクールにも参加しました。そうしていくうちに、ああ、もう新築ばかり建てているだけの時代ではないんだと実感しました。」

*東北芸術工科大学教授、みかんぐみ共同主宰

 

当初は「空き家」にはそれほど関心がなかったという荒木さん。しかし、自宅の隣が空き家になり、見渡せば周囲にも空き家がある、自治会の中にも空き家が多い、これはただごとではないぞ、とじわじわと自分事のように思い始めたと言います。

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更に、コンペで優秀賞をとったことで、「あなたの視点はおもしろい」と新聞社などからも取材を申し込まれ、注目を浴びることになりました。 残念ながら地元の諸事情があり、記事になることはなかったとの事。

しかし、自治会長が自ら空き家問題の解決に乗り出してきたということは、業界的に衝撃的だったようです。それを察したのが、先のコンペの審査員の一人だった社会デザイン研究者の三浦展(みうらあきら)さんという方でした。

 

「『自治会長でこんな人がでてきた。自らの建築士という職能を活かして空き家の問題解決をはかる。

そういう動きは今後大事』ということを本(地価下落時代に資産を守る 第4章中古住宅をリノベーションで価値向上)に書いてくれました。

それを耳にして、ああ、自分の動きもそんな変な動きではないんだ思いました。全国でいろんな事例を知れば知るほど、やっぱりどんどん動いていかなきゃだめだなと実感しました。」

 

しかし、いざ川越で動こうと思ったときに、何もとっかかりがなく悶々とする日々が続きました。そんな折、まちづくり事業の一環として開催された川越市主催の馬場 正尊氏*講演「リノベーションによる空き家・空き店舗の再生と新たな価値の創造について」を知ることになります。

*建築設計事務所「Open A」代表。不動産仲介サイト「東京R不動産」のディレクターなどを務める建築家

 

「え?行政でこの視点を持っている人は誰?と。 絶対(川越市の)産業振興課の誰かがこれを繋げていると思い、すぐに市役所の窓口に行って『これ考えたの誰ですか?』と聞きました。(笑)」

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ここで産業振興課の方と運命ともいえる出会いがありました。荒木さんはその後、開催された「街歩きワークショップ」、「まちづくりキャンプ」と参加。志を同じくする仲間たちとの出会いがあり、家守会社を立ち上げ、現在の物件に携わっています。

リノベーション事業の先導をきっているように見える荒木さんですが、新築を手掛けないということではありません。

 

「新築するなら、それなりのスペックのものをと思います。20年、30年で立て直すのではなく、震災にも強いとか、次世代まで残るようなものなど、ちゃんとしたコンセプトのもとに建てられるべきだと考えます。そうでなかったら、余っている遊休ストック(空き家)をうまく使えば色んな展開ができるんじゃないかと思います。」

 

新築ありきではなく、自分の生活スタイルに照らし合わせて新築かリノベーションかを選んでいけばいいのでは、と荒木さん。しかし、想像以上に空き家はあまりに余っている状態。

リノベーションであれば、必要な個所だけ手をかけていけば、コストを抑えることもできます。

 

「世の中のCO2削減の動きや、リユース的な考えにも通じます。エネルギーを生みだしていくのと同時に今あるものを大切に使っていくということにシフトしていかないと、いつまでたっても、じゃんじゃんお金がでていくということになりかねません。

特に日本はこれからどんどん人口が減少していきます。今までと同じ生活をしていると成り立っていかなくなることもあります。省エネルギー的観点では、気づいておられる方もいらっしゃるので、これを推進していったらいいと思うんです。」

 

建物に関して言えば、自分たちでできることもたくさんあり、自らすすんで手を加えられるのは大きな魅力だと語ります。

※取材時は塗装ワークショップの最中でした。(子供と大人が一緒になってワイワイ行われていました)

 

しかし、連雀町の物件はとても古く、実際開けて見ないと分らないことばかり。

今まで苦労もたくさんあるのではないでしょうか?

 

「見えないところ、特に給水面は想定外でした。となりに同じような空き家の長屋があるんですが、自分たちの敷地側を改修するなら、そっちも全部なおさなければならないと分ったんです。その費用は全くみてなくて倍以上の費用が掛かってしまいました。

でもとなりも、ゆくゆくは何か展開があるかもしれないから、そこはちゃんとやっていこうと思いました。建物もとても弱くなっていたのですぐに補強にはいりました。デザイン性も大事ですが、まず建物自体を守らなきゃいけない。止まらなかった漏水を直し、重く建物の負担になっていた瓦をかえました。これもかなりお金がかかりました。」

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実はそのとなりの長屋も今足場を組んで改修工事の最中です。

この荒木さんたちの真摯に取り組む姿や、丁寧に改修されていく様子を見たオーナーさんから、自宅のバルコニーや隣の建物も同じように老朽化しているので、同じように改修してもらいたいと依頼があったそうです。

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「オーナーさんの意識がかわったのかもしれません。壊して更地にするのではなく、残したいという気持ちになったからこその依頼だと感じます。

空き家だけどこの風景が好きな方はいると思います。いろんな建物にたずさわってきましたが、特にこの建物には地域の人たちの思い入れがすごくあるんだなと感じます。外に立っているとよく話しかけられるんです。『何ができるの?』とか『昔ここ洋品店だったのよね』とか、この建物に対して何か言って行く人、思い出を語られる人も多いです。風景としての建物がそのまま残っているということは重要だと思います。一度新しい建物が建ってしまうと、昔の風景はなかなか思い出せなくなってしまいますから。

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荒木さんの活動を見て、同じように古い建物や蔵を所有している方から、相談にのってほしい、見に来て欲しいという声がかかり、想定外の展開が起きているようです。

最初は、ほんの少人数で始まったリノベーションの改修工事でした。しばらくするとボランティアとして解体作業を手伝っていく人、積極的にかかわってくれる人とだんだん増えきたと言います。

 

地域のことだけれど、まずは自分事としてどんどん動いてみる。会議であれこれ考えてるだけでなく、動く。そして、そこで出会った人達と連携し、次の展開に向けて必要ならば自分や仲間で、できる範囲で出資したりクラウドファンディングも利用して、まずは小さく始めていくといった動きが大事なんだと実感しているそうです。

 

「なによりスピードが早い。昨年12月に会社を立ち上げて、作りながら、事業を組み立てながら、半年でここまでできます。小さくても立ち上がると半年後にひとつ事業ができる。

これをどんどんまわしていけば結構な数の空き家問題も解決できると思います。小さくても、とにかく風景が残っていくって地元の人にとってもいいことなのかなと思います。」

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たった一つの空き家が生まれ変わり灯がともる。 それは一角にただテナントをいれる、ということではありません。

そこには、新たに人の流れができる。集まる-

荒木さんたちが目指すのは、小さくても将来をみすえた活動、地域全体を活性化していくエリア・イノベーションです。

川越は観光地として、日々多くのお客様を迎えています。
しかし、その地域に暮らしている人たちが、自分たちが住む場所としてそして普段を過ごす場所として愛着を持ち続けてほしいという強い思いがあります。

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「子供たちにも、街をみて面白いなって思えるような場所があるといいですよね。今、子供たちはどんどん居場所がなくなってきてます。ここ(すずのや)もオープンしてみて、空いている時間に何か教室みたいなものができないかな?って話しもあります。 近くに公民館がありますが、その延長線上で一緒に使っていく、なんてことも考えています。」

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長屋が生まれ変わり、店舗のオープンまであと一か月を切りました。この次はどんなことを考えているのでしょうか?

 

「これから働き方が変わり、色んな働き方が増えていくと思います。いろんな人が集って、好きな時間仕事ができる、コワーキングスペースがあったらおもしろんじゃないかな?って思います。空き家や空き倉庫を改装しておしゃれで、好きな音楽がかかっていて、そこでのびのび仕事できる、なんていいと思います。

そこでいろんな技術や職能を持っている人たちが出会えば、また新しい展開を生む場所になります。僕が住んでいる南古谷のように市街地から離れたエリアは、のどかな割にインフラはある程度ととのっているし、コスト面でも抑えられる。

それをたとえば角栄商店街や南大塚でも展開し始めるとおもしろいことになっていくんじゃないかな。今までないコンテンツがはいっていくと街がちょっと変わっていくと思います。」

 

他にも、新河岸川や水辺や田んぼ利用した活動もどんどん進めていきたいとのこと意欲を燃やしています。

 

「他の地域みても、川越ってイベントや人が洗練されているなと個人的に感じます。たとえば音楽やるにしても、集まる人たちって皆すごい人達ばかり。 ノウハウを持っていらっしゃる方もいてポテンシャル高いです。切り口も色々あっておもしろい、だけど、場としてはまだまだ足りない。大きな箱はもうあると思うので、皆さんのパワーをもっと気軽に発揮できる場所を作っていきたいですね。」

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荒木さん、お忙しいところご対応いただきありがとうございます。

来週の5/29(月)はすずのや・glin coffee出入口の木製建具吊込が開始され、いよいよ店舗内の仕上げにはいるようです。

そして、もう一つ大事なご案内があります。
川越の眠っていた長屋をリノベーションして、集まる人が楽しめる場を作りたい
として、FAAVOさんにてクラウドファンディングが始まりました。

(後日、カワゴエ・マス・メディアが運営する「くらびとファンディングポータルサイト」にも掲載いたします。)

このクラウドファンディングで賄うのは、工事後半で不足してしまった「工費」への充当(外部建具・シャッターの修繕費、DIYで行う塗装塗料・養生代)。コーヒーや厳選野菜、食事券など素敵なリターンも用意されています。

川越の新たな魅力スポットの誕生の一助として、あなたも加わりませんか?

 

インタビュー・記事・写真:本間 寿子


INFORMATION

株式会社80%

【HP】https://www.facebook.com/80per/

荒木牧人建築設計事務所 

【HP】http://maao.jp/ 

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