田んぼの生物多様性向上10年プロジェクト全国集会 in 川越〜第2部 基調報告〜
取材・記事 白井紀行
ラムサールネットワーク日本(以下、RNJと称す)の安藤氏の司会で集会が始まりました。
RNJとは、1971年イランのラムサールで採択された「水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」通称、ラムサール条約に基づいて、湿地の保全・再生、賢明な利用を実現するために活動している環境NGOです。
ホームページ:http://www.ramnet-j.org/
開会の挨拶
RNJ共同代表 柏木実氏
RNJ共同代表の柏木実氏による開会の挨拶
人工の湿地「田んぼ」で愛知目標を達成する「田んぼ10年プロジェクト」の趣旨を紹介。
生物多様性の象徴である雁(かり)。
その雁にゆかりの深い川越でできることを嬉しく思いますと柏木氏。
川合善明 川越市長
田んぼに囲まれたところに生まれ、その大切さを肌で感じている川合市長。
用水路の整備は、生物多様性の観点では木の杭で土留めをして川底を残したい。
しかし、農家の高齢化による草刈りや溝さらいの手間、費用面でU字溝にせざるをえない。
皆さんの活動と相反する選択をせざるをえない行政側の悩みを話しました。
川越市では、「第3次環境基本計画」に基づいて「生物多様性」の保全に取り組んでます。
基調報告
【お断り】この記事は講演を撮影したビデオをもとに作成しています。
長時間の講演をまとめる過程で順番を入れ替えたり省略しているところもあります。
従って、こちらに記載された内容の文責は全て記者にあります。
登壇者が意図しない表現や内容があった場合、予告なく修正されることがあります。
雁の街・川越
RNJの共同代表であり「日本 雁を保護する会」も務める呉地正行氏。
この季節、伊豆沼(宮城県栗原市)に飛来する雁の群れを自宅の窓から毎朝眺めているそう。
冒頭は市の鳥としても川越にゆかりの深い雁(かり)の話から始まります。
川越は「初雁の杉」が原点となって川越は初雁の街となった。
市内には会社名、学校名、団体名、橋、お菓子、校章のデザインや壁画など初雁づくし。
野田五町の八幡太郎の山車の彫刻や四方幕にも故事にちなんだ雁の絵が描かれています。
(初雁)幼稚園から老人ホーム(はつかりの里)まで川越では一生雁が付いて回る。
ゆりかごから墓場になぞらえ、文化的に雁が根付いた街は珍しいと話します。
呉地氏は1990年に「雁よ再び伊佐沼」と題し雁の生息地の拡大を川越で呼びかけています。
この「田んぼ10年全国集会 in川越」では「雁よ再び、初雁の里・川越へ」がテーマ
雁が選ぶ豊かな田んぼと雁がいる風景を初雁の里・川越に取り戻す。
それを、将来の夢として描き、それに向けて取り組んでいくものです。
田んぼの生物多様性向上10年プロジェクトとは?
ここから本題の「田んぼの生物多様性向上10年プロジェクト」の話に入ります。
このプロジェクトは、2008年韓国で開催されたラムサール条約COP10で採択された水田決議がきっかけ。
2010年には、名古屋で開催された生物多様性条約COP10で農業多様性の決議を採択。
豊かさの損失に歯止めをかけるため2020年までに達成すべき20項目を「愛知目標」として採択しました。
達成するために継続する枠組みを呉地氏が発案し「生物多様性10年」を国連総会が採択。
環境省は「生物多様性の10年日本委員会」を、市民運動では「にじゅうまるプロジェクト」が始動。
そして、RNJが2013年に栃木県小山で発進させたのが「田んぼ10年プロジェクト」です。
「田んぼ10年プロジェクト」は、20の愛知目標を水田に当てはめた18の水田目標からなります。
詳しくは「田んぼ10年プロジェクト行動計画書 2013【クリック】」をご覧下さい。
RNJの役割は「田んぼプロジェクト10年」に多くの人に参加してもらう仕組づくりとその受け皿
具体的な事例集や地域地域交流会による支援で田んぼの生物多様性向上の活動全体を支援。
諸活動の実施と継続。関係者との交流・目標達成・田んぼの主流化を目指します。
田んぼ10年プロジェクトのこれまでの活動
2012年の栃木県の民間稲作研究所のワークショップ。
2013年の小山でキックオフシンポジウムでプロジェクトの立ち上げ。
そして、2013年から2016年の間に地域交流会を5回開催。
2017年の2月25、26日に、千葉県いすみ市で第6回の開催が予定されています。
現場の活動を支援するため目で見てわかるガイドブック(実施の手引き)を用意
内容はこちら「現場で進める水田の生物多様性の維持と向上【クリック】」
水田目標1、7、8を達成するのにすぐにもできそうな具体策が記載されています。
水田目標#7は「水田の生物多様性が向上するよう農業が行われる地域を持続的に管理する」こと。
その目標を達成するための具体的な個別行動は4つ。
7-1 水田の生物多様性を維持、または向上する対策を実施
7-2 水田の生物多様性を維持、または向上する諸対策をまとめたガイドブックを作成し発行
7-3 水田の生物多様性を維持、または向上する諸対策を普及
7-4 水田目標7を達成するためのその他の活動
ガイドブックでは現場の人が見てわかるよう写真を多用しわかりやすく解説しています。
18の水田目標は、66の具体的な個別行動に分類されています。
そのなかでできそうなものがひとつでもあれば登録して参加する。
現場でのひとつ一つの取り組みを積み重ね、百人の一歩を束ねて裾野を広げる。
それにより、国際社会が目指す生物多様性の向上の貢献につなげるのが狙い。
現在、約200の団体・個人が参加していて、2020年までに500の登録を目標としています。
興味がある方は、RNJのホームページ http://www.ramnet-j.org/tambo10/ をご覧下さい。
RNJのホームページから登録も可能となっています。
コナギを愛でて食べる会
RNJが最近、注力しているのが「コナギ」
コナギは除草剤を使っていると生えてこない、有機農業においては最強の雑草。
それを視点を変えて資源にする「コナギを愛でて食べる会」の輪を広げています。
コナギを利用してのフルコースやお菓子にも取り組みます。
コナギは雑草でなく食べられる資源。
そういう風に見れば除草・駆除は収穫の喜びに変わり気持ちが元気になる。
「コナギを愛でて食べる会」は、2014年から蕪栗沼、気仙沼、大潟村などで開催しています。
後のポスターセションでは、コナギクッキーが配布されました。
2020年のゴールに向けて
RNJでは2020年のゴールに向けて、目標達成に向け登録活動数500件にする。
登録件数を田んぼの生きもの豊かさと関心を高め主流化。
生物多様性を基盤とした循環型地域づくりを支援。
アジア、アフリカ、中南米の国際的な枠組み作りも目指すなどの目標を掲げて活動しています。
RNJは生物多様性で「資源としての田んぼの生きもの」に重点を置いています。
ここでいう資源とは、
・持続可能な農業を支える農業資源(天敵など)
・地域循環型の利用が可能な食料資源(おかず)
・イネを育てる田んぼで育つ教育資源(心を育む)
これら3つの複合生産力の再評価。
それを生かすために「田んぼ10プロジェクト」の輪を広げる取り組みに参加をと結びました。
千葉県いすみ市の取り組み
全国集会のゲストスピーカーならこの方と川越で意見が一致した太田市長の登壇です。
「いすみ市の自然と共生する里づくりと学校給食全量有機米への取組」
市長と農林課の職員 鮫田さんが二人三脚で取り組んだ6年間の物語が始まります。
いすみ市について
いすみ市は東京から70km。房総半島の銚子と館山の真ん中に位置する人口約4万人の街。
市の中心を魚種の多い川が流れ、里海と里山があり、千葉県の三大米の産地のひとつ。
いすみ市生まれの増田明美さんは千葉県のブータンというように自給自足が可能。
隣の一宮市は2020年のオリンピックの会場に選ばれ、サーフィンのメッカでもある。
広さは千葉県で5番目、耕地面積は4番目の街です。
北と南の生きものが出会って共存しており、希少生物も多数生息。
イスミスズカケという世界でここにしかいない固有種もいます。
いすみ生物多様性戦略
いすみ市の豊かな自然を子供たちに残さないと、いすみ市の未来はない。
その思いで2015年2月に策定したのが「いすみ生物多様性戦略」
地域資源の活用や地域競争力強化を図るためには、自然資本の維持・増大が不可欠。
社会経済活動と自然が調和する地域づくりを推進するための戦略が盛り込まれています。
業者に頼らず専門家、市民、商工業者などが話し合って作った手作りの策定です。
いすみ市はかつてコウノトリ舞う里山
市長が生物多様性への取り組みを始めたのは2010年。
野田市長から「ときとコウノトリを呼ぶ地域づくり」を持ちかけられたのがきっかけ。
その頃すでに、市民とNPOは市内を流れる夷隅川で生物多様性保全活動を行なっていました。
いすみ市は自然が豊かで環境の変化に敏感な土地柄。
その土壌があったから農家にも自然の保護、生物多様性が受け入れられたと太田市長。
2010年に「コウノトリ・トキの舞う関東自治体フォーラム」を立ち上げ、現在35市町村が参加。
「人間と生きものが生きられる環境作りがこれからの時代だと思う。
いずれ、農薬やそれを使った農業はいろいろな問題が出てくるはず。
各地域が眠っている間に新しいことを始め、生物多様性をもとに経済戦略を立てる。」
それが、このフォーラムに参加している理由なのだそうです。
毎年に2回会議を行い、国に働きかけ生物多様性に関する予算を要望しています。
市民とともに作る自然と共生する里づくり
いすみ多様性戦略を策定し、市民と一緒に行動するため8つの目標を掲げました。
子供たちが有機の里でできた地産地消のものを食べながら健康な生活を営める地域。
20〜40代の人が求める環境の土台があれば、次世代の子供たちも住み続ける。
巣立っても故郷を思い出してくれるだろう。その願いが8番目の目標に込められています。
いすみ市が取り組む有機稲作
古くからの穀倉地帯で房総の三大米と称されていた「いすみ米」。
しかし、米価低迷、高齢化、後継者不足によって生産維持が困難な状態に陥る。
水稲栽培の活性化として、無農薬栽培への取り組みを始めました。
無農薬栽培を始めるも、田んぼは雑草だらけ、一反から3俵しか取れない。
「こんな栽培なんかできるわけない」「生きものためにやっているんだ」
農家からは叱られ、議会から追求される、市長はもう止めようと諦めかけました。
そんな時に知ったのが栃木の民間稲作研究所。
稲葉先生に種モミ、田植え、刈り取り、途中の処理の指導を受け技術が格段に向上。
4万2千俵のお米が採れ1俵で42,000円の価格でも完売できるまでになりました。
学校給食米はすべていすみ市の有機米に
有機稲作にも目処(めど)がつき、市長は次はどうしますかと協議会に問いかけました。
するとある農家が「この恵みを子供たちの給食に使ってもらえないか」と発案。
市長は議会にその意見を通し、2016年は学校給食米の40%に導入されました。
子供たちも「健康で安心で自然の恵みが豊かな環境でできたお米を食べている」と理解。
全国の教育委員会に「いすみのお米を食べて欲しい」と手紙を出すことを提案しました。
有機の里づくりに向けての取り組み
大規模農家は応援し増やす。集落・里山にある田んぼは共同・協業で有機の里にする。
有機稲作で使う堆肥や有機質肥料は地域資源を循環させて作っていく。
そのために土着菌生物を活用した堆肥・有機肥料の製造センターを稼働させます。
収穫されたお米は市が高値で販売する仕組みを作る。
いすみ市では、お米だけでなく農・海産物、特産品の販売網の全国を進めています。
未来を担う子供達の健やかな成長を願った「いすみっこ」という名前でブランド化。
生物多様性の時代でいすみ市はまだ子供。少しずつ成長しているという意味も。
いずみ教育ファーム
農業を学んだ小さい頃の思い出が故郷を忘れない、故郷に帰ってくるようにさせる。
自然回帰の源を教えるいすみ教育ファーム。
消費者と農家の交流
農村は老いの社会を迎える。そのときに都会から環境をつくる担い手になって欲しい。
生物多様性の里をみんなで守り育てる地域づくり、その土台作りとしての両者の交流。
環境を介した消費者と農家の連携と関係づくりが、これからの真の地方創生であると力説、
企業と連携した対流モデル事業
イオングループと連携して会員の交流活動や有機米を店舗展開販売する。
環境と経済が互いに良くなる「対流モデル事業」という仕組み。
これをもっと大きくして企業数も増やしていく。そんな、将来像も描がかれています。
まとめ〜いすみ市のこれから〜
いすみ市では「自然と共生する里づくり」で掲げた目標を達成してきました。
「豊かな自然環境を守り、生物多様性がもたらす恵みをきちんと受け取り、資源が循環する持続可能な地域の実現」と「次の世代を担う元気で健康な子供たちを育てていくこと」。それが、いすみ市が目指す街づくりです。
恵み:生態系サービス(供給サービス、調整サービス、文化サービス、基盤サービス)
資源:人、モノ、お金
循環:地域内循環、農村漁村と都市との共生・対流
「恵み」「資源」「循環」の3つのサイクルを大事にし、地域の魅力をアップする。
それにより、住める地域、選ばれる地域づくりを目指したい。と結びました。
次世代の子供たちに残すものは何か、何かを残さなければ、いすみ市の将来はない。
市長と市民が一丸となって取り組んでいる熱意が会場に満ち溢れた講演でした。
お知らせ
生物多様性を育む農業国際会議が25日、26日いすみ市で開催されます。
当日の告知となってしまいましたが、是非、いすみ市に足をお運びください。
詳しくは、http://www.city.isumi.lg.jp/miryoku/event/cat1709/2_4/6in.html
INFORMATION
田んぼの生物多様性向上10年プロジェクト全国集会 in 川越
【日時】平成29年2月18日 9:15〜18:00
【場所】ウェスタ川越(第1・2活動室)
【主催】NPO法人 ラムサールネットワーク日本 http://www.ramnet-j.org/
かわごえ里山イニシアチブ https://www.facebook.com/kawagoesatoyama/