今年も米作りを追いかけます!〜有機稲作ポイント研修会(苗床づくり)〜
「かわごえ里山イニシアチブ」が主催する「有機稲作ポイント研修会」。
川越市北部地域ふれあいセンター(山田1578-1)で4月16日に開催されました。
‖ 午前の部 (座学)
講師は「NPO法人 民間稲作研究所」理事長の稲葉光圀氏。
今年は10回ほどブータン王国に稲作を教えるために行くとのこと。
その忙しい合間を縫っての指導です。
いのち育む有機稲作
稲作は自然が相手のため雑草、害虫、病気、天候の影響が避けられません。
それに対して農薬や除草剤を用いて対処するのが現在の一般的な農法。
だけど、天敵もいなくなってウンカ(害虫)が発生する弊害がみられる。
農薬を使わない有機稲作では、鉄腕ダッシュでも紹介していた合鴨農法。
お隣の韓国では雑草を食べるジャンボタニシを使った農法があります。
前者は鳥インフルエンザ、後者は外来種による生態系を乱す問題を抱えています。
民間稲作研究所では、自然の力と生物多様性を利用した農法を15年かけて開発。
農薬や除草剤を使わず、低コストと省力化も両立した稲作を実現しています。
有機稲作の安定生産は苗作りが重要
苗作りは62cm×32cmほどの大きさのマットに種籾を撒いて行います。
一般に種籾の量は180gなのですが、そうすると細い苗となってしまいます。
葉っぱは2枚半、高さは12cmに育ったところで一株に4〜8本植える。
すると、すし詰めとなり光合成は妨げられ樅の栄養分は呼吸に使われます。
風通しが悪いため稲に紋枯れ病が発生したり病害虫の多発の原因になる。
それを防ぐために15〜20成分の農薬を散布するという状況に陥ります。
これを50gの薄播きにすると苗はしっかりと成長し、一株で2〜3本と密集しません。
本来は共立ポットの穴に種籾を2粒ずつ入れるのが望ましい。
葉っぱが4枚半出て草丈が15cm以上に育った苗。有機稲作は苗作りが重要です。
障害不稔を避ける成苗/疎植のイネ
こうして育てた苗は冷害にも強い。
穂は茎の中で育つのですが、出穂の13日前に幼穂を調べたところ違いを発見。
密集して植えた稚苗は茎の中で幼穂が早く成長する。
ここで17度以下の低温になるとおしべがやられてしまいます。
しかし、成苗だと3cmで穂の成長を止め、17度を上回ってから出穂。
これにより冷害の被害を受けないそう。
ただ、近年は温暖化によって、冷害の研究は停滞気味なのだとか。
植え付け密度とイモチ病との関係
イモチ病は稲に発生する病気のひとつででイネいもち病菌というカビが原因。
イモチ病を実験する田んぼの隣で成苗の植付本数を変えた密度試験を実施。
その年は冷害で密度試験をしていた田んぼもイモチ病の被害を受けました。
しかし、1本植だと発生しない。2本植を境に、それ以上の本数だと発症。
これにより、1坪あたり1400本の穂数が最適だと判明しました。
ササニシキはイモチ病に弱いとされています。
でも、実は稲を密集して植えていたのが根本的な原因があったことが判明。
こういった研究結果も農薬で済む有機稲作に取り入れられています。
種籾を脱芒(だつぼう)して、比重1.15の塩水選を実施
種籾の先端にある芒(のげ)を餅つき機で取り除き塩水に浸けます。
十分に成長し病害虫に強い種籾は比重1.15で沈むので選別ができます。
温湯消毒器 湯芽工房
塩水選の後、十分に乾燥させた種籾を60度のお湯に7分間浸けます。
乾燥も大事で濡れたままだと種籾の温度がすぐに上がってしまいます。
そうすると、7分以上浸けたことになり発芽率が下がってしまうのだそう。
種子伝染病害虫は温湯消毒で一括防除
温湯消毒は病害虫が稲の生育に適した25〜30度で活動するのを逆手に取ったもの。
農薬を使うと菌に耐性が出来てしまうし、薬液の処理の問題もあります。
60度のお湯だと菌は死んでしまいます。
また、生き物ですのでその温度で活動できるような耐性も付きません。。
さらに、お湯は冷めればただの水、そのまま流せるという利点もあります。
150リットルで4kg×2袋分の種籾を投入すれば30秒で60度に達する。
温湯消毒ではこういった温度管理もとても重要です。
温湯処理時間と発芽勢
60度で7分という数字の根拠を示す表です。
短いと発芽抑制物質が分解されず、長いと酵素が壊れてしまうので7分が最適。
60度の温度も実験を繰り返して導きだした温度なのだそうです。
こういった研究から理論を積み上げて生まれた有機稲作農法。
話を聞くたびに、受講者は感心するばかり。
ハト胸状態に揃えるポイント
種籾を同じタイミングで発芽させるポイントの説明。
ポット苗の置き床の作り方・並べ方・潅水法
下に寒冷紗や防風ネットを使った根切りマットを敷いてはがしやすくすること。
はがす時には0.3〜0.5mmのピアノ線で根切りをすると良い。
潅水を怠ると芽が出ないといったコツや注意点の説明。
播種から一葉期までは7度以下にしない。
葉っぱが出るまでは、7度以下にならないように保温が必要です。
寒冷紗だけだと乾燥するのでカバーをかけて保水や雀の害を防ぐことも必要。
講義は、さらに核心へ。
たくさんの生物が住み生態系が整った田んぼでは農薬が要らなくなる。
代掻きや7cmの深水管理、トロトロ層による抑草効果など。
冒頭に上げられていた民間稲作研究所の有機稲作のポイントは次の3つ。
1.無農薬・有機栽培のための苗作り
2.生き物を育み、草を出さない圃場整備
3.安定多収と良食味を支える肥培管理
今日の稲作ポイント研修の実践は1の苗作りなので講義の紹介もここまで。
2、3についてはまた、改めてお伝えします。
なお、この記事では苗作りに付いてもかなり端よってしまっています。
より詳しく知りたい方は、興味を持った方、下記の冊子をお求めください。
お問い合わせは、かわごえ里山イニシアチブまで。
また、活動に賛同してくれる方の入会やカンパも募集しています。
‖ 午後の部(実習)
午後は、高梨農園に移動して、種まきと置床作成の実習です。
今年は4反の田んぼを貸し出してくれている高梨さん。
毎日のようにブログを更新して、稲作の様子を綴っています。
耕福米耕作人ブログ(http://blog.goo.ne.jp/koufuku_mai)
苗床の作成
苗床を置くところを平らになるよう整地。
こちらでは苗床の準備に取りかかっています。
育苗ポットを並べて
穴に有機栽土を入れて行く。
種籾が適度な深さに入るように土を2〜3割ほど搔き出します。
育苗ポットがフニャフニャと曲がってしまうので、育苗箱に入れて土を掻い出す。
種籾蒔き
ポット苗で大変なのが穴に一つ一つ種籾を入れること。
そこで稲作研究所では専用の機械も開発しました。
トレーを傾けて振動させると穴に一つ一つ種籾が入る仕組み。
全部の穴に種籾が入ったら育苗ポットをセット。
スイッチを押すと種籾が育苗ポットの穴に落ちる精密な仕組み。
ただ、効率としては1時間に20枚程度とそこそこ時間は掛かります。
2粒になりますが、みのる産業の機械を使うと1時間に200枚は入れられるそう。
育苗ポットを重ねて種籾を押さえつける。
そして、その上から有機栽土を掛けて擦り切ります。
育苗箱に有機栽土を入れています。こちらも育苗箱を利用して摺り切り。
育苗箱を30枚(一反分)田んぼに並べていきます。
そして、育苗ポットをその上に重ねる。
育苗箱に入れた土は苗に栄養分を与えるためのものです。
その後は、十分な潅水。
午前中に座学で習ったことを実際に学んでいきます。
機械蒔き
今年は4反分の稲作をしますが、残りの3反分は機械蒔きとなります。
種籾の量を確認するために試験的にトレーを流します。
落ちた苗をはかりで60gとなっているかを計測。つまり、薄播きです。
問題なさそうなので、土を入れた育苗箱を流します。
60gって以外と多いですね。
午前中の座学では一般の苗床づくりは180gと云ってましたのでこれの3倍。
苗がいかに密集して植えられているかが分かります。
種籾が蒔かれた育苗箱も田んぼに並べていく。
これにたっぷりと水を与えます。
保温、乾燥、雀対策
苗が葉っぱを出したら田んぼに水を張ります。
苗床の分だけで良いので溝を掘って土手を作りビニルを伸ばす。
ビニルに土を被せれば土手の出来上がり。二人とも中々の鍬さばき♪
保温のために寒冷紗を被せます。
続いて乾燥しないようにハイマットを被せる。
色が白いのは中の温度が上がりすぎないようにするため。
東北ではグレーのものを使うそうです。
ハイマットの上にネット。これは、雀を防ぐためのもの。
また、ハイマットが飛ばないように固定する役割も果たします。
Uの字の針金でしっかりと固定。
これで完成で、本日の作業は終了。
ただ、翌日の暴風でまくれ上がってしまい、修復したそうです。
一日、お疲れさまでした!
昨年は実習から座学という順番でした。
個人的には、今回のように座学が先の方が身に付きやすいと感じました。
【参考】初体験!米づくりは知らないことだらけ!〜かわごえ里山イニシアチブ〜
‖ おまけ
昨年蒔いたレンゲの様子です。
【参考】もう始まっている来年の米作り〜高梨農園でレンゲの種まき〜
4月24日(日)のレンゲまつりで摘み取ることができます。
こちらは、先日作ったミツバチ巣箱の様子。
【参考】♪*♪*ニホンミツバチさん、いらっしゃい♪*♪*(ミツバチ巣箱づくり)
まだ、ミツバチは来ていない様子でした。
取材・記事 白井紀行
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